■「かがやき」代表、福田幸子さん(60)
■時給300円時代も… 手間と時間かけ目指す 利用者の「普通の生活」
家庭的な雰囲気で介護を受けられる「宅老所」が注目を集めています。民家などを改造した場所で「通い」「泊まり」を中心にサービスを提供し、「居住」ができる所もあります。東京都足立区の「かがやき」もその一つ。代表の福田幸子さん(60)は施設での介護に疑問をもち、宅老所を始めました。利用者はできるかぎり「普通の生活」を続けています。(寺田理恵)
「かがやき」では7人が暮らしています。その一人、タエコさんは重いアルツハイマー病です。引き受ける施設がほかになく、最初は「かがやき」のショートステイを利用され、後に居住第一号となりました。いっしょにお風呂に入って向かい合うと、とてもいい顔で喜んでくださった。病状が悪くなったときも、私のことだけは見分けてくださいました。
平成14年暮れに肺炎を起こして入院され、病院ではカテーテルを通して栄養を補給したり、尿を排出させるバルーンカテーテル、酸素吸入を処置されていました。ご主人から「かがやきの人に見守られて逝かせたい」といわれ、病院で泊まり込みをしたものです。
ところが退院後、「かがやき」では口から食事ができるようになり、在宅酸素やバルーンカテーテルも必要なくなりました。その様子を見たご主人は「かがやきで看取ってほしい」と涙ながらに話されました。
病院では管で栄養を送り込まれていた人でも、口から食べてもらっています。ミキサー食だった人に普通の食事を出したら、おはしを使うので1時間以上かかりましたが、普通に召し上がりました。もともと、ご自分の能力をもっていたのでしょうね。普通に生活することで、元気になるのだと思います。
96歳のオシゲさんは「お下の世話だけは、されたくない」とおっしゃる。排泄(はいせつ)は人間の尊厳にかかわりますし、おむつを使うと寝たきりになってしまいます。失敗して部屋をびしょびしょにすることがあっても、片づけて済むなら自分でしてもらう方がいいと思います。
こうしたやり方は時間がかかりますし、私たちは手出しを我慢しなければならない。黙って見ているより、手出し口出しした方が早い。人手がなければできません。「かがやき」では居住者7人に対し、スタッフは私も含めると12人います。
◇
ずっと主婦でしたが、もともと世話好きで、平成8年1月に有料老人ホームで働きはじめました。そこはどんなに重い人も引き受けていましたが、入居者を人間らしく扱う姿勢に欠け、入浴介助では「ジャガイモを洗っていると思えばいい」と指導を受けました。スタッフが少なく、入れ替わりも激しかったですね。私なりに変えようとしましたが、思うような介護ができなかった心残りがあります。
ホームで3年働いて受験資格を得ると、すぐに辞めて介護福祉士試験に合格しました。しゅうとめが亡くなり、しゅうとは介護が必要な時期でした。わが家は二世帯住宅ですので、空いていた1部屋と4・5畳の台所を使って、11年12月に有料老人ホーム時代の仲間と「かがやき」を開設し、デイサービスと泊まりを始めました。
◇
NPO法人を立ち上げたものの、自宅では玄関や浴室などが家族と共用のため、介護保険の指定事業者に認められません。幸い、すぐそばのモデルハウスを持ち主の理解を得て格安で借り、移転してデイサービスで介護保険の指定を受けることができました。開設当初は給料も出せず、スタッフの時給が300円のときもありましたが、12年の介護保険導入でひと息つき、いまは社会保険も整備しています。
いまの建物に移ったのは15年。もともとタエコさんのご主人が建てられた家です。個人住宅という使用目的のまま、「かがやき」が借りることになりました。
不特定多数の人が住むには建築基準の問題があり、区の指導で当面の措置として火災探知機や避難場所など250万円近くかけて改修したものの、将来的には移転しなければなりません。資金のない「かがやき」が費用をどう工面するかが今後の大きな課題です。
ここでは、居住は介護保険サービスの適用外ですから、7人は月額15万円の私費で暮らしています。全員が「ここで死にたい」という希望なので、看取る覚悟です。「かがやき」では困っている人がいれば、空きさえあれば応えてきました。時給300円時代からのスタッフの中に、後継者も育っています。私もあと10年はがんばろうと思います。
◇
【プロフィル】福田幸子
ふくだ・さちこ 「宅老所かがやき」代表。ケアマネジャー。3年間の有料老人ホーム勤務後、介護福祉士の資格を取得し、平成11年12月に東京都足立区で「宅老所かがやき」を開設。デイサービスや居住サービス、ケアプラン作成、障害者自立支援を行っている。今年8月から介護保険適用の訪問介護も始まった。
(2006/08/24)