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障害者が自立できる社会へ(下)

 □「障害者の経済学」著者、中島隆信教授(46)

 ■消費者になることで働く意欲わいてくる環境整備も支援の一つ

 慶応大学商学部の中島隆信教授(46)は、息子(20)の障害をなかなか受け入れられなかったといいます。「養護学校卒業を契機に、多くの人の話を聞き、初めて息子の置かれている状況を客観視できた」と打ち明けます。中島教授は反省も込めて、「福祉は社会参加への第一歩であるべきだ」と説きます。(聞き手 北村理)

 障害児の父親としての転機は遅まきながら、太一が養護学校を卒業するときでした。進路を決めるため、多くの施設を回って、こんなにいろいろな施設があるのかと驚きました。

 一方で、施設の役割や施設での仕事に素朴な疑問も感じました。その反省と疑問の延長で障害者の置かれた環境を取材してまとめたのが、「障害者の経済学」(東洋経済新報社)です。

 私は「障害者が自らの意思で消費したり働いたりする方が社会にも望ましい。つまり、障害者が社会参加しやすい環境を整備することは必要な投資だ。障害者が自立すると、家族の負担も軽減される」と考えています。

 自立への第一歩は障害者も消費者になることです。福祉サービスも、消費者の視点から評価しなければいけない。そのためにも、無料でサービスを受けられるのは望ましくないでしょう。無料では消費者として自立できませんし、サービス内容も向上しません。何より、消費者になろうとすれば働く意欲もわきます。

                   ◇

 障害児の親は、子供が養護学校を卒業するのを前に、作業所や授産施設など、子供を受け入れてくれそうな施設を必死になって探します。障害児が就職し、家庭を持つことは想定外なのです。施設側にも似た傾向があるように思います。

 そうすると、施設に入った障害児・者はずっとそこで過ごすことになる。それでは、施設不足の悪循環になります。

 そうした状況はなぜ生まれるのでしょうか?

 ひとつには、親の偏った見方が子供の自立を妨げていると思います。親は障害児を「自立していく人間」としてではなく、「いつまでも保護してあげなければならない子供」と見てしまいがちなのです。

 障害が重ければ重いほど、親は子を抱え込もうとします。将来が不安ですから。どうしても頑張ってしまう。障害が軽くても、「障害者だから」というあきらめが先に立つ。

                   ◇

 私の経験も踏まえてですが、障害児の自立にはまず、保護者の自立が必要です。

 太一は今、親から離れてグループホームに住み、作業所に通ってパンやクッキーを作るなどで工賃を得て暮らしています。一見、自立しているようですが、意思表示をする訓練をしてこなかったので、現実はなかなか難しいようです。

 親が「やってあげるのが当たり前」と思ってきましたから、彼にすれば、してもらうのが当たり前。ですから、自分がしたいことを判断して、自分で行動することが難しいのです。

 例えば、障害者を就労させるのに、「1人で通勤できること」を条件にする会社もあります。しかし、親は子供がそういう生活をすることをイメージしていないので、子供に1人で外出させる訓練をしていないケースが多いように思われます。

 太一は現在、バスで作業所に通っていますが、「危ない」という判断に不安が残るので、バス停までは介助者が付き添います。太一は脳性まひで重度の心身障害がありますが、もっと早い時期から、家庭や学校で時間をかけて1人で外出する訓練をさせていれば、1人で通勤できたかもしれません。

 外出する際も、家族が丸抱えにするのではなく、第三者に託すなどして、太一自身が他者とコミュニケーションしながら行動する癖をつけさせるべきだった。しかし、そうしてこなかった。養護学校卒業後に自立への準備を始めたのでは遅いことを痛感しています。

 太一は今、これまでの給付金の貯蓄と作業所の工賃で生活しています。この生活でトレーニングを重ねて、将来は障害年金や、働いたお金で自立した生活をしてほしいと願っています。

 障害者が自立に向かって動き出すには、本人を支援するだけでなく、取り巻く生活環境そのものを支援することが必要です。問題を抱え込みがちな保護者には、第三者が情報提供して、手助けするシステムをもっと充実してもいい。障害者の問題は本人や家族だけの問題でなく、社会全体の問題であるべきでしょう。

 どうしても働くのが難しければ、親でなく、障害者本人に所得保障をして、少なくとも消費者として社会参加する道を探る必要があるでしょう。

 障害者の社会参加が成功すれば、少子高齢社会にも望ましいことです。さまざまな課題を解決し、そのような方向に向かっていくべきだと思います。

(2006/10/06)

 
 
 
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