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糖尿病でも食豊かに(下)

360キロカロリーのフルコースを前に、赤倉昭夫シェフ(左)、「知食の会」のメンバーと談笑する田中範正さん=東京都新宿区の「リーガロイヤルホテル東京」(撮影・瀧誠四郎)


リーガロイヤルホテル東京「レストラン ガーデン」のメニュー「スリムライン・フレンチ」(撮影・瀧誠四郎)


 □知食の会代表幹事 田中範正さん(68)

 ■家庭でもできる「知食」 健康とおいしさの両立可 夢は世界のスタンダード

 糖尿病合併症による壊疽(えそ)で右足の指を切断した田中範正さんは、長年携わったハイテクと異なる「知食」の世界に入っていきます。では、低カロリーメニューはどう開発されたのでしょうか。通常「2000キロカロリー以上」といわれるフレンチのフルコースを、「360キロカロリー、塩分2・2グラム」で作るノウハウと、今後、メニューをどう生かしていくかを聞きました。(中川真)

 手術後、「寿命はわずか」との気持ちを胸に、病気でもうまいものを食べるには、どうすればいいかを考え続けました。「病気の原因は食を知らないことだった」との思いから、仲間たちと「知食の会」を作りました。

 会の食事会では、摂取カロリーを360キロカロリーに決めました。根拠は、私が考えた簡易カロリー計算法「(身長センチ−100)×9」です。この数式に当てはめると、身長180センチ以上の私は、1食あたり700キロカロリーを超えてもOKですが、出席者に140センチの女性がいた。みんなで同じメニューを食べるので、彼女に合わせて360キロカロリーにしたんです。

 塩分2・2グラムは、腎臓病患者の1日の摂取量とされる7グラムを3で割って2・3グラム。誤差も考慮して、やや控えめの2・2グラムにしました。

 私はサラリーマン時代、品質保証に携わった経験があります。製品精度をどの程度に高めれば、許容範囲に入るかを突き詰める部署です。だから、「目安」には常に関心があります。ちなみに、塩の量では、1グラムは1円玉と同じ量と考えればいいんですよ。

                   ◆◇◆

 「知食の会」では、食事会を繰り返してメニューを作ったんですが、最初はカロリーを下げることに精いっぱいでした。20回目くらいまで、魚なら魚、肉なら肉の単品だけ。でも、60回を超えた今、メニューは約80種類。フルコースも可能になりました。

 低カロリーメニューは「油落とし」が最大のポイントです。例えば、マグロの油を落とすには、バーナーで表面を一気に焼き、うま味を閉じ込める。肉をオーブンで焼く際も、油の落ち具合を始終、チェックする。

 表面を焼いた肉を、ぬるま湯につけて、さらに油を落とすこともあります。牛肉は42度、豚肉は37度程度で脂身が溶け出すので、60度くらいのお湯につければ、表面のムダな油がきれいに落とせます。

 塩分は、素材に筆で塩水を塗る方法で減塩します。濃い塩水のときは細い筆、薄い場合は太い筆を使うなど、工夫しました。

 デザートも、カロリーが砂糖の300分の1という羅漢果をグラニュー糖と組み合わせ、50キロカロリー前後で作れるようになりました。私は築地に1年半、事務所を借り、毎朝市場を歩いたこともあり、長年のぜいたくで最高の料理を知っているつもりです。だから、プロのシェフと対等に議論できたんだと思います。

 家庭でも、応用できます。肉だって60〜70グラムくらい食べても平気です。フライパンでいためず、オーブントースターで焼くんです。窓から油が落ちるのが見えるでしょ。魚焼き器を使うのもいいと思います。

 私は糖質(炭水化物)を避けるため、小腹が空いたら、おにぎりの代わりにスーパーでサラダを買い、焼きのりで巻いて食べます。のりのうま味で塩やマヨネーズがいらないんです。

                   ◆◇◆

 「知食の会」では、こうした手順や、おいしい食事を提供する方法を講習で希望者に指導しています。習得した「味のコーディネーター」は年内には10人程度になると思います。

 低カロリーのフレンチを常時、提供しているのは、東京、大阪のリーガロイヤルホテルと、東京・品川のパシフィックホテルです。東大病院(東京・本郷)内のレストラン「ブルー クレール精養軒」への導入も準備中です。

 こうした料理を、家庭でもできる高齢者向けメニューに応用し、365日の毎食を低カロリーでおいしく作る手順を確立したい。一部は「(財)保健福祉広報協会」の冊子などで公表しています。

 目標は、料理の世界になかった知的所有権を取り、「知食」のメニューを家庭や世界のスタンダードにすることです。材料費自体は決して高くないので、病院食に導入する仕組みも作りたい。冷凍で提供すれば、簡単に加工でき、病院食の改善につながります。これは、多くの企業でシステム導入に携わり、「知食」に取り組んできた私にしかできない仕事と思っているんです。

                    ◇

 リーガロイヤルホテル東京「レストラン ガーデン」のメニュー「スリムライン・フレンチ」。手前から時計回りに、帆立て貝、赤ピーマンのムースと茸のハーモニー(63.8kcal)、牛ヒレ肉のグリル、南仏風野菜添え、赤ワインソース(126.1kcal)、バナナのココナツミルク煮(66.5kcal)、スズキのエスカロップ蒸気蒸し、マスタード風味バルサミコ酢ソース(99.2kcal)。これにコーヒー、パン、バターがついて、税、サービス料込みで1万1550円。同ホテル大阪では別メニューで9240円。

(2006/11/03)

 
 
 
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