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一人っ子の介護(下)

 □大学教授・作家 荻野アンナさん(50)

 ■裏切られ続けても 触れあえる一瞬 いつかきっと来る

 20代以降、親の心配をしていない時期がないという作家、荻野アンナさん(50)。逃げたいと思ったことは何度もあったそうです。しかし、「きっとこれからも長いし、私も騒ぐかもしれませんが、形状記憶合金のようにもとに戻る自信はあります」と話します。(聞き手 永栄朋子)

 昨秋、お酒の飲みすぎで倒れた父(92)は、数カ月入院し、つえでやっと歩けるものの、トイレは要介助の状態で退院しました。難しいのは分かっていましたが、本人が強く望んだので、できるところまでやろうと自宅に連れ帰ったのです。

 しかし、限界はすぐに来ました。昔人間の両親は、介護保険の利用をぎりぎりまで拒み、やっと申請して父が要介護4、母が要介護1と認められても、母がヘルパーさんに気疲れしてしまう。父1人が「ネバーギブアップ」なんて言う中で、母がばて、ヘルパーさんがばて、私もばてるといった悪循環。

 デイサービスも1日おきに利用しましたが、介護保険枠はこれでいっぱい。日に3回のヘルパー代は自己負担で、月に30万円近くかかりました。それでも、私もヘルパーさんもいない間は心配が残る…。自宅介護は非常に難しかった。

 父は結局、今年6月に自宅から程近い有料老人ホームに入居しました。父が納得できる施設を探せたのは、私のこれまでの最高の仕事だと自負しています。家族には限界でも、本人が納得しないと、つらい。「無理やり入れられた」とだけは思ってほしくなかったんです。

 父が納得した理由は2つ。1つは本当にぎりぎりまで意思を尊重したこと。もう1つは施設の私室を楽しめる空間に変えたからだと思います。

 父が施設を嫌がるのは、施設に娯楽が少ないからだと思いましてね。施設では、娯楽は折り紙を折るとか、近所をお散歩とかになってしまう。でも、子供返りしても、大人ですから。

 だから、部屋をバーに改造していいと言ってくれる施設を探しました。幸い、快く承諾してくれる施設が見つかり、スーパーで買えるだけのお酒を購入し、壁にダーツを用意しました。バーは父の名前を取って「アンリーズバー ジャマイカ」と命名。ジャマイカって陽気な感じだし、「じゃまぁいいか」という言葉遊びもあり。父はもう自分ではボトルを持てないので、たまに英語のできる館長さんに晩酌してもらっています。

                  ◆◇◆

 父は少年のまま大人になった人。若いころは家庭を顧みませんでした。そんな父と向き合ったのは、父の退職後、それも病気の世話をするようになってからです。私に父親が必要といわれるときは、父は家におらず、父親に私が必要になってから、私はべったり面倒を見ている。母は「面倒を見てもらっていないのに」と言いますが(笑)、でも、足して2で割れば、同じこと。

 体調を崩し出して20年、去年倒れてお互いに生きるか死ぬかの時期を経て、ようやく父と触れ合えたかな。わがまま勝手にきた父ですが、施設に入るとき、急に「自分はエゴイストだった。人のことを考えなかった」と言ったんです。91歳にして、生まれて初めて「人のことを考えよう」と。人は変わるんですね。

 父は私を娘というよりソウルブラザーと思っているはず。私も同じ。期待を裏切られ続けても、続けていると、触れ合える一瞬ってくる。アホに徹してよかったなと思います。

                  ◆◇◆

 先日、父の誕生会で出席者が父に「アー ユウ ハッピィ?」って聞いたら、父は「アイ ドント ノウ」って。まったく素直じゃないの。ハリセンで頭をたたいてやりたい(笑)

 周り中が「父は幸せだ」と思っています。でも、同年代の友人はみな「私たちの老後は、ああはいかないだろうね」とも。少子高齢化だし、介護や年金制度への不安もある。私には有料老人ホームに入るほどお金はないし、子供もいませんから、自分の老後は自分で解決するしかありません。だから、両親を送るまで頑張れたら、不良老人ホーム「ジャマイカ」を作って、館長になろうと思って。

 女性限定。バーとホストクラブがあって、ディスコでモンキーダンスを踊るの。90歳のおばあちゃんにとって、60歳のホストはピチピチですし。老い先短いから崩壊寸前のマンションを安く買いたたいて。リスクは自己責任。そう考えると、安上がりにできると思うんです。ハイリスク、ローコスト。でも、大人の楽しみはちゃんとある。

 日本の介護はお金がかかりすぎ。それに、年寄りを型にはめて考えすぎる。とにかく、事故さえなければいいという安全第一主義で。でも、年寄りは子供返りはしていても、大人の楽しみを知った人たちですから。

(2006/11/10)

 
 
 
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