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歌手 朝倉美沙さん

 ■かなわなくても夢を抱け 「ばあちゃん」に励まされ 看護師から歌手に転身

 タレントの島田洋七さんが豪快で優しかった祖母を描いたベストセラー「佐賀のがばいばあちゃん」。映画やテレビドラマなど、一連の作品をイメージした曲「ばあちゃん」を歌い、「歌手」の夢を果たした女性がいます。福岡の老人病院(療養病床)の看護師だった朝倉美沙さんです。高校時代に祖母を介護したのを機に、看護師になった朝倉さんに、「ばあちゃん」と歌への思いを聞きました。(中川真)

 高校3年のとき、86歳の祖母の足が不自由になり、わが家にやってきました。一緒に住むのは初めて。父がお風呂まで運び、私が入浴を介助するなど、介護は家族でしました。祖母は私の部屋で寝ていたので、ポータブルトイレへの移動、おむつ交換、入浴介助なども積極的にやりました。

 祖母はそのたびに、両手を合わせて「美沙ちゃん、ありがとう」と言ってくれました。感謝されるのがうれしくて、進路を決めかねていた私は、介護の仕事に関心を持つようになりました。

 高校卒業後、福岡の総合病院で介護助士の仕事に就きましたが、「医療や看護の知識も身につけたい」と、1年後、看護学校に通い始めました。朝7時から、お茶配り、おむつ交換、食事のセッティング、食事介助、入浴介助などの仕事をして午後は学校で勉強。夕方は病院に戻り、夜9時まで働く生活が2年間続きました。

 授業中に眠ってしまうこともありましたが、患者さんたちの「いってらっしゃい」「おかえりなさい」という笑顔に励まされ、准看護師の資格を取りました。その後も救急外来などで働きながら、正看護師の資格も取得しました。

 わが家を離れ、入院していた祖母に報告すると、「美沙ちゃんの夢がかなって、本当によかった。ありがとうございます」と、涙を流して喜んでくれました。そばにいた看護師さんは「おばあちゃんは、いつも『美沙ちゃんの夢がかないますように』って祈っておられましたよ」と教えてくれ、私も涙が止まりませんでした。

                   ◇

 祖母は3年前に亡くなり、私は心の底から笑えなくなってしまいました。そのころ、「佐賀のがばいばあちゃん」の本に出合いました。貧乏でつらくても、明るく前向きに生きる「がばいばあちゃん」に感動して泣きました。

 がばいばあちゃんの名言に「たとえかなわなくても、人は一生、夢を抱け」という言葉があり、忘れかけていた「歌手」の夢を思いださせてもらいました。小さいころの私は、糊(のり)のチューブをマイク代わりに、浅香唯さんや工藤静香さんの歌を歌っていました。祖母や患者さんにハーモニカで童謡を吹いてあげたこともありました。

 悩みに悩んだ末、28歳のときに、「2年間だけやってみよう」と決断しました。オーディションは年齢制限があるので、「場所があれば、どこででも歌いたい」と、セミプロとして営業活動を続けました。

 会社の忘年会や新年会、各地のイベントに呼んでいただき、多くの方と出会い、仕事の幅が広がっていった感じです。今はお客さんの層に合わせて、さまざまなジャンルの歌を歌っています。

 一昨年5月、広島で島田洋七さんと偶然に知り合いました。私はうれしくてたまらず、「がばいばあちゃん」を愛読していることや、それがきっかけで歌手になる決断をしたことを興奮気味に話しました。洋七さんは「本だけじゃなく、映画も作ることにしたんや。『かなわんでも夢を持て』って、ばあちゃんも言ってたしなぁ。おれも夢持って頑張ってるとこ」と話してくれました。

                   ◇

 こうしたご縁で、「ばあちゃん」の女性歌手バージョンなど、洋七さんが作詞した3曲を歌うことになりました。まず、CD3000枚を自分で売り、昨年4月、映画の先行上映に合わせて、全国デビューしました。

 働いていた病院では「ただいまコンサート」を開き、1年半ぶりに50人くらいの入院患者さんに、「ばあちゃん」を聞いてもらいました。お年寄りにも楽しんでもらえるコンサートができるのが今の夢です。

 老人病院には、認知症の重い患者さんが多くいます。看護師だったときも、いつもニコニコして、テレビを熱心に見ている患者さんがいました。夜勤のとき、その方の見ている歌番組に、私の大好きな藤木直人さんが出演していたのでつい、「ちょとだけ貸してね」とイヤホンを借りたことがあります。でも、音は流れていませんでした。新聞や本を逆さまに読んでいるような方もいました。

 こっけいなようですが、みんな一生懸命に生きています。お年寄りの魅力は、周囲への優しい視線。私自身、祖母や、看護師として出会った多くのお年寄りに癒やされてきたのだと思っています。

                   ◇

【プロフィル】朝倉美沙

 あさくら・みさ 昭和51年8月、埼玉県生まれ。自衛官の父親の転勤のため、沖縄、宮崎、福岡で育ち、5回の転校を経験。福岡県の高校を卒業後、地元の病院で介護助士、看護師に。平成16年に休職し、セミプロ歌手として、活動を始める。昨年4月、島田洋七さん作詞の「ばあちゃん」で全国デビューを果たした。

(2007/02/01)

 

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