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男の介護(中) 

すでに会話は成立しないが、息子は母の話のひとつひとつに相づちを打つ


 ■母のアルツハイマー/気楽な独身生活が一変/時短勤務で仕事と両立

 料理も掃除もすべて同居の母(79)任せ。気楽な独身息子(46)の生活が、母のアルツハイマー発症を機に一変しました。「男の介護」第2弾は、独身1人息子の介護。サラリーマンの息子は職場の時間短縮勤務を利用しながら、仕事と介護の両立を目指します。本人の希望により、匿名でお届けします。(聞き手 永栄朋子)

 母の主治医が「お母さん、おかしいよ」と連絡をくれたのは、4年前の今ごろです。話のつじつまが合わず、名前が書けないと指摘されました。

 そういえば、急に洗濯機の使い方を忘れたり、おかしなことはありました。でも、僕自身は年のせいだと思っていた。

 検査でアルツハイマーと判明。5年くらいで、いろいろなことが分からなくなると知って、慌てて親戚(しんせき)を集めて旅行や食事に行き、母を学生時代の同窓会に連れて行きました。以前はそんなことしたことありませんでしたが、これで最後になると思ったんです。

 当時の仕事はコンピューターのプログラミング。ライブハウスに通い、同僚と飲みに行く気ままな生活でしたが、それも母の病気で大きく変わりました。

 僕の場合、ずっと独身で実家暮らしでしたから家事はすべて母任せ。料理も掃除もしたことがなかった。それが急に自分ばかりか、母の世話まで始まった。父は20年前に他界し、兄弟もいません。

                 ■□■

 最初の年が一番大変でしたね。母が昼間寝て、夜、ゴソゴソと起き出したんです。昼夜逆転が1カ月くらい続いたかな。幻覚を見るのか「誰かが針を刺しに来る」とおびえたり。会話も成り立たなくなりました。

 当時はフルタイム勤務だったから、昼間は近くに住む叔父(71)に来てもらいました。1人にしておくと、たんすの中身をひっくり返したり、外へ出て走る車の前に飛び出したり、危ないんです。年頭に60日残っていた有給が、暮れにはほぼなくなりました。

 翌年、会社で介護の時短勤務制度が始まったのを機に、7時間勤務にしました。介護保険も申請。要介護3でした。

 当初は午前中の2時間、ヘルパーさんにきてもらったんです。でも、母がヘルパーさんが来ると落ち着かず、外に出てしまったりする。結局、2カ月で断りました。

 でも、来てもらってよかったですね。ヘルパーさんがするのを見て、「そうか、母の髪をとかさなきゃいけないんだ」なんて気づきましたから。

                 ■□■

 時短勤務が認められるのは2年間。でも、2年たっても状況は改善しない。それで会社に「生活できない。なんとかしてくれ」と頼みこんだんです。時短の継続が認められ、今年で3年。今は5時間半の勤務です。理解のある職場で、恵まれていると思います。

 ただ、給料は減るので、母の年金がなければ生活できなかったですね。

 今は毎朝6時に起きて8時半に出勤。会社を3時半過ぎに出て、途中、デパートで総菜を買い、4時半に帰宅。母が散歩好きなので、2人で酒屋や豆腐屋に買い物に行き、6時ごろ食事。その後、母をお風呂に入れて、8時に寝かせています。

 土曜日は地元の商店街に2人で買い物に行き、日曜は毎週のように、母が生まれ育った町まで電車で出かけて、おそばを食べて帰ってくる。そんな感じで1週間を過ごしていますね。

 介護保険は利用していません。デイサービスは母が行きたがらない。ヘルパーさんも、会社員の感覚からすると、こんなことに税金使っていいのかと心配になるほど非効率的だし…。

 前にヘルパーさんを頼んだときは、キンピラとか作ってもらって、うれしかったんですが、私が払うのは1割でも、人件費も含めると、総額数千円ですからね。トイレだって、毎日掃除する必要はないわけですし。

 だから、食事はすべて総菜を買っています。でも飽きるんで、最近は「今日の料理」を切り抜いて、自分で作ってみたり。うまくいきませんがね。

 将来の不安は、介護そのものより、僕自身の雇用不安ですね。いつまで正社員の身分が保障されるか…。僕が年金を受け取れるのは18年後。それまで働かなきゃ暮らせませんし。

 フルタイムに戻るのも一案ですが、高齢の叔父の負担が増してしまう。介護は長丁場なので、あまり無理をしたくないんです。

 家事は介護保険でヘルパーさんに頼むより、家族がした方がずっと、経済効率がいい。これからますます高齢化するのに、介護にいつまでもこんなお金の使い方ができるはずがありません。納税者を増やす意味でも、介護と仕事が両立できるよう、国は介護の時短勤務を認める会社の社会保険料負担を補助するとか、環境を整えてほしいですね。

(2007/03/28)

 

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