得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

男の介護(下) 

小宮さんがいないと不安になる津がさん。デイサービスを利用するときは「4時に迎えにきます」と書いた紙を持たせる


 □小宮俊昭さん(62)

 ■リタイア後に母の世話/グループホーム勤務で得たノウハウが役立つ

 いずれ親を介護する−。そう考える男性に、滋賀県彦根市の小宮俊昭さん(62)は、ボランティアなどで介護を経験することを勧めています。小宮さん自身、リタイア後にグループホームで働いた経験があり、それが認知症の母、津がさん(89)の介護に役立っているからです。(寺田理恵)

 認知症の母を昨年12月から、自宅に引き取り、介護しています。3年前に家内を亡くし、息子と2人の男所帯です。私が食事を作り、母の体調を管理しています。先日は耳の具合が悪かったので、耳鼻科へ連れていきました。毎日いろいろありますが、昨年4月から10カ月間、グループホームに勤めた経験が役に立っています。

 私は早くに三重の実家を離れ、滋賀に住んで30年以上になります。母は兄の家の別棟に住んでいました。母を引き取った訳を説明するには、私の生い立ちをお話しした方がいいでしょう。

 私を大学まで出してくれたのは母です。私は昭和19年6月に父の転勤先のソウルで生まれました。ところが父が病気になったため、母は戦争末期の大変な時期に、兄と病身の父、生後半年の私を連れて三重県に帰りました。父は翌年1月に亡くなり、母が役場に勤めて私を育ててくれました。その母が2、3年前から認知症になり、兄が介護に苦労していたので、私がみる覚悟をしました。そのとき「怒らない」「待つ」と決めたのです。

 住まいが変わった当初は夜中に譫(せん)もうが出て2、3時間しゃべっていました。1週間も続くと大変でした。粗相をすることもありますが、怒らないで後始末をすると感謝してくれます。身内だとつい怒ってしまいがちですが、怒ると早口になるので、認知症高齢者は言葉が分からなくて、ますます混乱します。

 母は自分でトイレに行けるし、洗濯物をたたんだりもする。暗算も早い。しかし、女学校時代のことはよく覚えているのに、最近のことは覚えていない。私の顔が見えないと、落ち着かなくなるので、出かけるときはホワイトボードに行き先を書いておきます。

                   ◇

 私はグループホームを今年1月末で退職しましたが、そこで経験した食事作りやケアが、母の日常生活にそのまま適用できます。

 グループホームの利用者は、女性ばかり9人でした。その人たちのケア、献立作り、食材の買い出し、入浴の介助など、家庭生活そのものです。私以外のスタッフは50〜60歳代の女性ばかり。いろんなことを教えてもらいました。ニンジンやゴボウは軟らかく煮たり、刻んだり。めん類は食べやすいように短く切ったりと、ふつうの食事より一手間かけます。

 下の世話や入れ歯の洗浄もしました。薬の服用確認も大事です。食事のトレイに置くだけだと床に落とすことがありますから、ちゃんと手渡して、服用したかどうかチェックします。

 認知症のお年寄りと接するのに、最初はどうしていいのか分かりませんでした。話をしたり、手を握ってあげるなど、ふだんのかかわり方が大事なんですね。

                   ◇

 リタイアされた男性には、親の介護をしようと思うなら、ボランティアででも介護を経験されることをお勧めします。妻の介護負担を軽くできると思います。

 私の場合、会社勤めをしていたころに、家内が「ヘルパー資格を取るための講習に行く」と言ったので、講習が土曜日だったこともあって、いっしょに受けることにしたんです。そのとき、ちょっと頭にあったのは私の母と家内の母です。

 義母はその2年前に引き取っていました。認知症が進み、徘徊(はいかい)して、近所の人が連れ帰ってくれたこともありました。家内がよく連れて歩いていたので、近所の人たちが顔を知ってくれていたのがよかった。いまは私が母と一緒に近所を歩きます。男1人になってから近所付き合いをしようと思っても、できない。家内のおかげです。

 1つ年下の家内は14年10月にがんが見つかり、2年後に59歳で亡くなりました。当時は現役で妻の看護と義母の介護が重なり、家内が再入院したときに、義母は施設に預けました。今もときどき、顔を見に行っています。家内の死の1カ月後に退職しましたが、早く仕事を辞めて一緒にいてやればよかった。

 家内がグループホームで働いていた縁で、そのホームから声がかかったので、家内の遺志を継いでいるようなものです。自分でいうのも何ですが、家内とは仲がよかったですから。

                   ◇

【プロフィル】小宮俊昭

 こみや・としあき 昭和19年生まれ。元会社員。平成13年、妻とともにヘルパー資格を取得。退職後の17年に男性向けの料理教室に2カ月通う。18年4月から、認知症高齢者グループホームで10カ月間、勤務した経験を生かし、実母を介護している。

                   ◇

【用語解説】認知症高齢者グループホーム

 認知症の高齢者が、5人から9人の小規模な生活の場で、日常生活上のケアを受けるホーム。利用者は食事の支度、掃除、洗濯などを介護スタッフと共同で行う。家庭的で落ち着いた雰囲気の中で生活することで、精神的に安定し、症状の進行を緩やかにする効果があるとされる。

(2007/03/29)

 

論説

 

 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.