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竹中文良さん(上) 

NPO法人ジャパン・ウェルネス理事長 竹中文良さん(撮影・柳原一哉)


 □NPO法人ジャパン・ウェルネス理事長

 ■がんにかかった医者 患者として死を実感 命の限界受け入れる

 ベストセラー『医者が癌(がん)にかかったとき』の作者、竹中文良さんが最初のがんにかかったのは55歳でした。以来、医師と患者両方の立場で生と死に向きあい、その体験が著作やNPO活動の源にもなってきました。現在76歳。がん患者として、医師として、竹中さんが考える「死の受容」と「希望」について聞きました。

(聞き手 柳原一哉)

 私たちのNPOでは、がん患者のためのセカンドオピニオン相談を専門医が行っています。最近、相談に訪れた65歳の方は肺がんで治療を受けていましたが、どうも状態が良くない。相談では、「どうやったら助かるのか」「どうすれば生きながらえるか」と盛んに尋ねてこられます。

 そこで、死を受け止める気持ちがあるかを尋ねたところ、「先生の年齢になれば、その気持ちを固められるかもしれない」と話されました。

 45歳のがん患者さんも、同様のことを言いましたら、「50代か60代になればあきらめがつくかもしれない」と。

 「欲張り」ではありません。生きたいという当然の意欲。それがなければ闘病はできません。しかし、申し上げなければならないのは人間の生には限りがあり、それをいつかは受け入れなければならないということです。

 「死の受容」は大切なテーマです。アメリカでは病気を闘い抜くことがすばらしいといわれている。昔は、日本でも医者たちががんで死ぬのは負けだ、敗北だと表現してきました。私もそうでした。

 ですが、ヨーロッパではもっと死の受容が大切にされています。どういうことかというと、人間いつかは死なないといけないということなんです。ほかの人は80歳まで生きるのに、自分だけが急に早くなることもあるかもしれない。不条理なものです。死を受け止められるだけのカルチャー、教養を若いころから身につけなければいけないという教育が行われています。

 ドイツ人のアルフォンス・デーケン上智大名誉教授が「死への準備教育」の必要性を繰り返し訴えていらっしゃるのも同じ理由だと思います。

 日本は、アメリカに近い。医者が良くて薬が良ければ、どんながんでも治るかのように思われている。

 がんになってもがんばらないほうがいい、というんじゃない。でも、人間ですから、最期がくる。100年の人生でも宇宙からみればごく短時間。それを腹におさめ、若いころから会得しておかないと、どんな状態になっても、いつまでもがんから治ろう、治ろうとしてしまう。そのこと自体が苦痛になり、苦しみを増幅してしまうのではないでしょうか。

                  ◆◇◆

 私自身、55歳でがんが分かってショックでした。切る側ではなく、切られる側にまわることで、初めて死が目の前に迫ってきた。そして、手当たり次第に本を読み、死のことについて考えるようになったのです。

 日本人は、人間はいずれ死ぬという基本的なカルチャーを忘れていると思うんですね。本当の人生の意味や人生の長さを真剣に考えるというより、今、楽しいことが大事にされてきた。楽しいことが続いてほしいと思うから、死について考えない。

 また、昔よりも生活が豊かになって病院で死ぬ人が多くなり、子供のころから人が死ぬのを見なくなった。死が現実の生活から遠ざかったことも原因でしょう。そうして、いつまででも生きられるという感覚に陥ってしまっている。しかし、それはまったく違います。

 私のように70歳を超えると、周囲に亡くなる人が増え、死を実感せざるをえません。しかし若いときからもっと死を実感して生きてきたら、より充実した人生を送れたのではないかと思います。

                  ◆◇◆

 ただ、がんであっても希望を持って生きることは大切なことです。

 私は、最初の大腸がんから20年目の昨年、肝臓がんにかかりました。かなり落ち込み、当初は手術せずにあきらめて、自然の成り行きに任せようと思いました。

 しかし、がんを患ったことで得たものも大きかった。NPOを発足させ、がん患者のサポート活動を進めてきました。そう考えると、生きられる限り活動を続けようと。闘病の意欲もわき、最終的に手術を受けました。

 人はいつかは死ぬし、覚悟を持つことを求められる。しかしそのこととがん患者が希望を持って人生を生きることは矛盾しません。

 人生の晩年は真夜中のドライブのようなもの。ヘッドライトが照らす道が見えるところまで、明るく元気にいきましょう。

                   ◇

【プロフィル】竹中文良

 たけなか・ふみよし 昭和6年生まれ、76歳。消化器外科医。日本医科大学卒業後、日本赤十字社中央病院(当時)に勤務。日本赤十字医療センター外科部長、日本赤十字看護大学教授などを経て、現在、同大客員教授。著書に自らのがん体験をまとめた「医者が癌にかかったとき」(文春文庫)など。理事長を務めるがん患者支援NPO「ジャパン・ウェルネス」の活動が平成18年の第54回菊池寛賞を受賞した。

(2007/04/05)

 

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