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竹中文良さん(下)

ジャパン・ウェルネス理事長 竹中文良さん(撮影・柳原一哉)


 □NPO法人ジャパン・ウェルネス理事長

 ■がん患者の心理ケア 医師だけでは不十分 NPO作りサポート

 自らがん患者である医師の竹中文良さんは、医療技術が日々、進む中でも、人生における「死の受容」を考えることが大切だといいます。半面、がん患者が希望を持ち、自分の人生を自分らしく生きるには、精神的なサポートも欠かせません。理事長を務めるNPO(民間非営利団体)「ジャパン・ウェルネス」の活動に、その思いが凝縮されています。(聞き手 柳原一哉)

 死の受容という考え方を大切にしてほしい。死を意識しないで生きているのは人間以外の動物です。人間は死があることを自覚しているからこそ、死と向きあい、文明が発展してきたのでしょう。

 そのことを基本に持ち、希望を持って生きることはすべての人にとって大事なことです。

 私たちのNPOのメーンの活動は患者同士のグループ療法です。がんの再発を繰り返したり、末期がんで苦しんでいる人が、東京・赤坂のこの事務所に定期的に集まり、自由に話し合うんです。

 がん患者同士でないと分かち合えないことがあります。がん患者としての自覚とか、苦しみながらどう生きるのかといったこと。分かり合える人の前で苦悩をはき出し、一緒に語り合い、鼓舞しあうことで、他者の経験に学び、がんへの向き合い方、希望を見いだしていくのです。

 こうしたがん患者の精神的なサポート活動をNPOとして始めたのは、患者の抱える悩みが医学的な治療だけで済むものではないと考えたからです。

 再発、転移が起きたときにどう対応するか。最期が近づいてきたときにどうするのか…。患者には肉体だけではない、いろんな悩みがある。その悩みに対応するのは医者だけでは無理。

 だから、患者同士でグループ療法をするのです。いろんな職種の人が関与しますよ。ファシリテーターと呼ばれる緩和ケア専門の看護師や臨床心理士らもその場に入り、助言します。

                   ◇

 患者さんに考え直してもらいたいこともあります。

 かつて「お任せ医療」といわれていました。そうした状況から今は大きく変わって、情報が開示され、ネット上でもあらゆる情報を簡単に見られるようになりました。ですから、患者は自分の病気のことを本当によく知ることができる。こちらが驚くほどです。

 しかし、あまりに情報が多過ぎて自分がいったいどれを信じていいか分からなくなり、困ってしまう。相談に訪れる患者さんの中にそうした方が目立ちます。

 病気の知識を習得することは大事ですが、患者がみる症例は自分1人だけ。一方、医者は何百人という患者をみている。なのに、患者さんは自分が学んだことが一番だと思っていることが多く、そのギャップが広がってきていると思います。

 特にがんのような厳しい病気の場合、客観性が担保されなければなりません。患者が自分の体を自分で判断していくことは、ちょっと危険ではないかと思うことがあります。

                   ◇

 一方、ジャパン・ウェルネスのセカンドオピニオン相談に舞い込む相談は急速に変わってきました。以前は、最初の医師の治療方針や判断が正しいかどうかという、いわば検証に重点が置かれていました。

 しかし今では、再発を繰り返すがん患者が「いったいどこまでがんばればいいのか」とか、「抗がん剤で弱ってきて、もう治療はたくさんだが、続けたほうがいいか」、あるいは「どこまで闘えばいいのか、ホスピスに入るタイミングはどうすればいいのか」といった死生観に関するものが多くなっています。

 そうなると、臨床系の医者だけでは対応できないことがあるので、緩和ケアの医師・看護師が対応することがあります。ほかに座禅、ヨガ、アロマテラピー(芳香療法)などの補完療法も行い、それぞれ効果をあげていますね。

 私ががんになった55歳のころ、こうしたNPOは存在しませんでした。私自身もほかの患者仲間とぼそぼそと話し合ったりする程度でした。

 それまで、自分では患者の気持ちが分かる医者だと思っていましたが、実際にがんにかかるとそうではなかったことを思い知りました。

 がん患者の精神的なサポートは、医者だけではできない。その思いが、今のNPO設立につながったと思っています。

(2007/04/06)

 

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