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ザ・ニュースペーパー 渡部又兵衛さん(上) 

渡部又兵衛さん(撮影・瀧誠四郎)


 ■糖尿病を放置し悪化 左足ひざ下から切断 舞台への執着心わく

 政治家の形態模写で、ニュースや世相を鋭く風刺するコントを20年間続けてきた「ザ・ニュースペーパー」の渡部又兵衛さんは、糖尿病が悪化したため、3年前に左足をひざ下から切断。いまも週3回、人工透析をしながら活動しています。「もっと多くの人に糖尿病を知ってもらいたい」と、舞台でも自らの体験を語る渡部さんに、糖尿病と付き合い続ける生活について聞きました。(中川真)

 「足、すごくむくんでますね」

 8年前、スカートをはいて、土井たか子さんとかにふんしたコントをやったとき、常連のお客さんに指摘されました。それで病院に行き、糖尿病が悪化していると分かったんです。「ひどいというより、やばいという感じね」と女医さんに言われました。

 実は、その数年前にも「糖尿病です」とはっきり診断されていたのですが、当時は全く危機感がありませんでした。痛くもかゆくもなく、薬だけ飲めばいいということでしたから。

 もらった薬が切れ、診察の予約も面倒くさくなって、放置していたのがいけなかったんでしょうね。ちゃんと治療を続けていれば、糖尿病と上手に付き合っていけたかもしれません。

 悪化した後は、入退院を繰り返し、白内障の手術も受けました。左足の親指が赤黒くなり、壊疽(えそ)も判明。薬で湿らせる治療を始めましたが、ベッドが空き、5回目の入院をしたとき、「ひざ下から切らなきゃだめだ」と宣言されました。

 「切断後も舞台に立てますか」

 「大丈夫、大丈夫。義足が一番つけやすいところを切るからさ」

 医師とそんなやりとりをしていました。大学の同級生など、周囲は大騒ぎでしたが、私自身は意外なほど、悲壮感とかショックはなかったですね。

 お笑いをやっていたからか、血液型がO型で性格が楽観的なのか。先生がそう言うなら、絶対に舞台に立てるだろう、と思っていました。新劇の「民芸」にいたときだったら、反応が違ったかもしれませんが。

 それに、切断を言われたとき、ものすごい高熱で意識がもうろうとしていて、「しんどいから、早くしてくれ」という感じでしたしね。

                   ◇

 事実を落ち着いて受け止められたのは、両親ともに糖尿病という家系のためかもしれません。若いころから、おふくろに「おまえも必ず糖尿病になるよ」と言われていましたし、病気と上手に付き合う両親を、若いころから見ていましたから。

 おふくろは昨年、79歳で亡くなりましたが、約30年前から、自分でインシュリン注射を打ち、仕事もしていました。最後の血糖値は600。「そんな高い数値まで測れる機器があるのか」と驚きましたね。

 おやじは93歳で森繁久弥さんと同じ年ですが、インシュリン注射を打ちながら、ひとり暮らしをしてますよ。私が里帰りすると、「たまにやらないと忘れちゃうから」と、駅まで車を運転して送ってくれるんですよ。

                   ◇

 最初は、切断面と義足が合わず、ものすごく痛かったですね。階段では1歩ずつじゃないと上り下りできなかったり。

 徐々に、ゆっくりなら、普通に歩けるようになりましたが、痛感したのは、世の中に真っ平らな道はないということです。どんな道も若干の傾斜があるんですよ。

 最初は、坂があると怖くて、若いヤツに支えてもらっていましたし、今でも、ちょっとした坂道も気になりますね。

 それから、うちの最寄り駅のエスカレーターは修理のとき、なぜか上りを止めて、下りは動かすんです。上りの方が大変なのに。そんなことにも敏感になりました。

 手術後、「要介護1」に認定されました。介護保険で自宅に手すりなどを付けられます。でも、夜に義足を外した後は、松葉づえでトイレなどに行けるので、結局、改造はしませんでした。

 イヤなのは、道を歩いていて、後ろからコツコツと女性のハイヒールの音が聞こえるとき。早く歩けませんから、立ち止まって先に行かせたり、最初から人通りの少ない道を選んだりしていますが、追い越されるのはイヤですね。

 ただ、病気をしたことで、仕事をもっと真剣にやろうという気持ちが出てきました。それまでは、他人には厳しいが、役作りなど、自分自身には「まあいいか」と甘い面もありました。

 でも、「限られた命」を痛感し、1回1回の舞台を何とかしたいと考えるようになりました。「舞台の袖で死にたい」という気持ちでやってきたので、舞台に立てなくなったら、生きるしかばね。病気になったことで舞台に対する執着心が出てきたと思います。

                   ◇

【プロフィル】渡部又兵衛

 わたべ・またべえ 昭和25年、新潟県生まれ。北海道小樽市で少年時代を過ごす。中学時代に演劇部で「父帰る」の長男役などを務め、演劇に目覚める。桐朋学園演劇科卒。劇団「民芸」で8年間、役者や裏方を経て、コントに転身。昭和63年に社会派風刺集団「ザ・ニュースペーパー」を結成。

(2007/04/19)

 

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