■つらくてもおしゃれ 肺がんで倒れた父に明るい色の帽子贈る
色には、人の生活の質を高める力があると、カラー・コーディネーターの川島彩子さん(35)は主張します。川島さんは、8〜9日付「どうする肺がん検診」で取り上げた藤沢良輝さんの長女。父親が職場健診を受けながら、肺がんが手遅れで見つかって亡くなるまでの看護や、子育ての悩みなどを経て、生き生きと毎日を送るための、“色”の重要性に気づいたといいます。(聞き手 北村理)
色は、選択する人の心理状態を表しますので、コミュニケーションの有効な手段となります。
私は、出産・育児で苦しかったときに色の勉強を始め、父ががんで急逝した経験を経て、今は闘病生活を送る患者さんのサポートも手がけています。
23歳で結婚し、25歳で長男(9)を出産しました。専業主婦にあこがれ、仕事をやめて家庭に入ったものの、夫は仕事に明け暮れる毎日。
一人っ子の私は、それまで、祖父母や両親の関心を一身に集める側でしたが、息子が生まれたとたん、愛情は一転して、息子に注がれるようになりました。
表面上はてきぱきと家事をこなし、「母親としてしっかりしなくては」と思うほどに、自信をなくし、外見と内面の乖離(かいり)は広がるばかりでした。
子育てや家事にあせり、精神的に追いつめられていたころ、公園でぼんやり、ほかのお母さんを眺めていたら、お母さんたちは判で押したように、地味な服装をしていたんです。私自身が鬱々(うつうつ)とした心理状態であるのと同様に、お母さんたちもやはり、家事や育児に追われてつらいのではないかと思うようになりました。
母親の選ぶ“色”は実は、子供の心理に大きく影響します。
大人に塗り絵をしてもらうと、子供はその色の選択による感情を、そのまま受け取ります。黒や灰色、紫もしくは赤からは「怒り・不安」を。水色、ピンク、緑、オレンジからは「リラックス、楽しさ」を感じます。
子供は、母親に「優しさ」を求めます。だから、母親がリラックスや楽しさを感じる色を使ったり、身につけるのを好みます。
例えば、子供自身の心理状態を知るために、歯ブラシの色を数種類用意して、朝晩の使用時に選ばせてみる。そうすると、その日、そのときの子供の心理状態が、色の選択に反映されます。青は落ち着き、赤は怒りや頑張り、白は再出発や気持ちの切り替え、黄色は楽しさの半面、甘えたい気持ちなどを示します。
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私の父は、肺がんで亡くなりました。がんが見つかったときには、もう手遅れで、放射線治療に、日課のような抗がん剤の投与。副作用で髪の毛も落ち、体重も15キロ落ちました。
おしゃれを自認する父にとっては、治療はもとより、自由にファッションも楽しめなくなったのはつらかったようで、はた目にもつらいものがありました。
私は、夏場には明るい色のパナマ帽をプレゼントし、父がやせてからは、私が配色に気を使って選んで着ていた女性用のシャツを着てもらっていました。
こうして、父の看病に通ううちに、がんを患う別のお母さんの姿に目がいくようになりました。母親のやつれた姿は、子供の心理状態にも影響します。ですから、そのお母さんに淡いピンクや柄物のパジャマを勧めたりしました。
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父親を看護した経験から、今では「育児の会」などの仲間に頼まれて、患者さんへ色のセラピーを求められることもあります。
つらいなかでも、家族の前では、若々しくいたいものです。化粧をする余裕がないときには、素肌がきれいに見えるように、スカーフやマフラーなどの色を足し、眼鏡などをコーディネートします。
ピンクは子宮の色といわれます。女性ホルモンを活性化させる色ですから、患者さん自身の気持ちを前向きにする効果があります。また、子供にも、やさしい抱擁感ある母親を演出し、安心させることができます。患者さんに子供と塗り絵を勧めることもあります。それが親子のコミュニケーションになります。
傾向の違いはありますが、人はどんな色でも似合います。肌や髪、瞳の色から、黄みがかった色(ウオーム系)と青みがかった色(クール系)のどちらが似合うか選びます。さらに、春、夏、秋、冬の、どのタイプに属するかを分けます。ピンクなど、明るい色が苦手と思っている人も、分類されたエリア内で似合うピンクを選ぶことは可能なのです。
色への気遣いをちょっと変えるだけで、生活の質を良くできるのです。今日の色は何の色?と、自分に問いかけることから1日が始まると、すてきですね。
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【プロフィル】川島彩子
かわしま・あやこ 昭和47年、横浜市生まれ。大学卒業後、横浜そごう勤務を経て、文部科学省認定ファッションコーディネート色彩能力検定1級を取得。現在は個人へのカウンセリングのほか、結婚相談、再就職支援などの色彩講師、イメージアップ講師として活動。神奈川県生涯学習指導者として、高齢者や母親を対象としたセミナーを行う。
(2007/05/10)