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高野英一さん(60)(下)

高野英一さん(撮影・中川真)


 ■退職仲間とワイン会社起業

 ■ワイナリーも着工へ 仲間同士で助け合う グループホーム構想

 両親の介護体験を経て、ブドウによる蒸留酒開発の夢を抱きながら、55歳で退職した山梨県甲州市の高野英一さん(60)。仲間と荒れ地の開拓から始めたブドウ栽培、蒸留酒開発は順調に進み、6年目の今年は、ワイナリーづくりをスタートさせます。将来は、働けなくなったときに、仲間同士で助け合って暮らすグループホームも建てる構想です。(聞き手 中川真)

 東京電力を退社した5年前、勝沼の鳥居平(とりいびら)の高台を持ち主のお寺から借り、開墾を始めました。「海抜400メートル」という鳥居平でも、かなり高い位置にあり、長年放置されていた農地でした。

 会社の先輩、田中幹雄さん(66)と2人で雑草を抜き、荒れ地を耕しました。かつてブドウ棚だったので、古木や針金、大きな石が次々に出てきました。

 すべて手作業で取り除き、約60アールの段々畑に整地するのに1年半。でも、徐々に仲間も増え、冗談を言い合いながらだったので、続けられたのだと思います。

 「フランス産のようなワインを作ってみたい」と、ブドウの苗は赤ワイン用で有名なカベルネ・ソービニヨン、メルロー、ピノ・ロワールを選んで植えました。そして、棚栽培が一般的な日本では珍しい、ヨーロッパ式の垣根によるブドウづくりに挑戦しました。

 農業経験は皆無だったので、やはり先輩で、果樹農家の堀内詔一さん(64)に指導を受けました。堀内さんも「全く分かってないなあ。農作業は早朝から午前10時くらいまでに終わらせるのに、10時に畑に来て、炎天下で働くなんて…」と笑いながら、ていねいに教えてくれました。

 農家の方からすると、まず、作業が大変な高地での栽培は邪道。勝沼では、お金になる生食用のピオーネや、生食と白ワイン用の「甲州」の棚栽培が一般的で、ワイン用ブドウの垣根栽培を選んだことも驚きだったようです。

 でも、プロがやらない分野に挑戦しようと考えました。農家の方々にも「荒れ地がなくなる」と歓迎され、農業用水を分けていただくなど、関係は良好です。

                   ◇

 平成16年、この畑で採れたカベルネ100%のワイン「朋友(ぽんゆう)」を試験的につくりました。お酒づくりには免許が必要なので、醸造は地元のメーカーにお願いしました。

 翌年は地元の甲州を使い、在職中に断念した蒸留酒「葡蘭酎(ぶらんちゅう)」を完成させました。ブドウの甘い香りが際だち、特に女性に「飲みやすい」と人気ですよ。

 当時、「絶対に売れない」と忠告してくれたワイナリーの方たちが、今では蒸留器を導入されていますから、それなりに成功したんでしょう。ブドウの焼酎は世界でもこれだけだと思います。

 そして、昨年秋には赤ワイン「鳥居平の夢」をつくりました。東京の東武百貨店で売ってもらっています。仲間6人で作った会社は「東電時代の夢を実現しよう」との思いで、「東夢」と名付けました。まだ給料は出せない状態ですが、ワインの販路もでき、一段落ついたところです。

                   ◇

 7月には、畑のふもとに小さいながら、自前のワイナリーを着工します。免許を取り、醸造が軌道に乗れば、月8万円くらいの給料が出せそうです。やりたい仕事をしながら、年金で足りない分をカバーしようという計画なんですよ。

 毎日の作業後、お茶を飲みながらの話題は、9割方が「年金」「介護」「病気」です。親を看取(みと)った経験や、自分たちの将来は、共通の関心事。後輩に「親は生きているうちに大事にしろ。墓石に布団はかけられないぞ」と話すこともあります。

 そうした会話から、グループホームの構想が徐々に見えてきました。畑やワイナリーで働けなくなったら、夫婦で入居し、後輩に見守ってもらいながら暮らすのです。

 もっとも、本当に介護が必要になれば、専門家にお願いしなければならない。東南アジアからヘルパーが来てくれるようになれば、人件費は安くできるかなとか…。少しずつ研究していきたいと思っています。

 グループホームを立ち上げるために、ワイナリーを完成させ、収益を確実に増やす必要があります。最長老の田中さんが70歳になるまでに、何とか形にしたいと思っています。

 最も大事なのは、私たちが先輩を見送り、後輩たちに見送ってもらうことです。一番若く、昨年から参加している営業担当の山岸正夫さん(55)には、「オレの死に水は山岸がとるんだぞ」と言っています。

 会社をつくったのは、取り組みを一代で終わらせないため。これからも、新しい仲間を広く引き込んでいきたいですね。

(2007/06/08)

 

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