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難病ジストニアを克服した難波教行さん(下)

「おっ難波君、男前に撮ってもらいや」。級友に冷やかされて照れる難波教行さん=京都市北区の大谷大学


 ■治療法なく進む病状 脳に電気刺激で手術 「歩きたい」夢かなう

 難病のジストニアと判明したものの、決定的な治療法に出会えず、病状が刻々と進行していった難波教行さん(24)。「ただ歩きたい」という夢をかなえた難波さんの話を、昨日に引き続きお伝えします。(聞き手 永栄朋子)

 やっとのことでジストニアと判明したものの、当初は治療法がなかったんです。診察は「どうですか?」「薬飲んでおきましょうか」と、3分で終わってしまう。

 中1の夏、母が「指のリハビリを受けさせた方がいい」と聞いてきました。主治医に相談したら、整形外科医を紹介され、そこで「ジストニアの専門医は日本にわずかしかいない。その1人は京都大学にいる」と言われました。

 京大の先生との出会いは僕の闘病生活の転換点になりました。注射をはじめとする本格的な治療が始まったんです。

 でも、秋になると、右足首が反り返って、すねがつるようになりました。立てば体重がかかるので楽なのですが、歩くと、体が左右に揺れて足をひきずってしまう。座ったり、寝たりすると、足首が反り返る。立ったまま眠れないか真剣に試したほどです。

 歩くことって、文字を書くより生活に密着しているからショックはひどかった。すぐに1カ月入院。薬の量も1日20錠を超えました。

                  ◆◇◆

 中2になると、首にも症状が進行してきました。足なら、けがをすれば、だれでも引きずる。でも、首が反り返るのは、重度の障害があると、はた目にはっきり分かる。それを一番、ぼくは気にしていました。

 学校生活では家庭科や美術、体育がダメ。成績評価にノート提出も入るから、内申書が悪くて高校に行けないかもしれないと悩みました。

 結局、公立はあきらめ私立高校に進学。相談した学校の中で唯一、入学後も「できるだけのサポートをする」と言ってくれたところでした。

 高校生のときは薬の量も半端じゃなく、1日40錠くらい飲んでいました。75キロあった体重が58キロまで減って、精神状態も悪かった。あり得ないのに、「ジストニアが心臓にまで出たらどうしよう。死ぬかもしれない」とパニックを起こしたこともあります。

 僕は中学生のとき、市の弁論大会で「障害者は不自由だけど、不幸ではない」と話して優勝したことがあるんです。でも「障害者はやっぱり不幸だ」と思った。トロフィーの返還を申し出たほどです。

 ぼくの症状がひどくなったことで、母も鬼気迫るものがありました。父は母が怪しげな新興宗教に入るんじゃないかと心配したそうです。

 高校2、3年は半分しか通えませんでしたが、大学には進学したかった。ただ闘病だけしているのは怖かったんです。うちは実家が寺。父の跡を継ぎたくて、僧侶の資格が取れる大谷大学へ進学しました。入試は試験時間を3倍の6時間にしてもらって、寝っ転がりながら受けたんです。

                  ◆◇◆

 手術の話が出たのは20歳のとき。脳に電気刺激を与えて症状の軽減を目指す方法。パーキンソン病の治療法として知られますが、ジストニアにも有効という研究結果があり、熊本大学で受けました。

 僕は歩きたかった。歩いても誰も何とも思わないくらい、自然に歩きたかったんです。

 手術には、脳内出血などのリスクがありました。でも、「どこか損傷するんじゃないか」という不安は二の次、三の次でした。「これで、良くならなかったらどうしよう」って、それが一番怖かった。

 手術は無事に終わりました。手術後はいすに座って食事できるようになりました。それまでは、体が絶えず揺れたり、反り返ったりして、寝ながらご飯を食べていたのに…。母の喜びは大きかった。

 でも、最初はもどかしさでイライラしてました。「もっと良くなりたいのに、まだ喜ばないで」って。本当に自然に歩けるようになるのか−。それだけが不安でした。

 入院16日目で歩けたときは、スーパーマンになった気がしました。どこにでも行ける。何でもできるって。しかも、同じ病室の人も友人も、最初は歩いているのが僕だってわからなかったんです。

 母に「荷物持つよ」と言ったら、すごくうれしそうだった。両親の気持ちは、親になって同じような子供を持たないと理解できないと思う。僕が今、母の気持ちを分かるというのは傲慢(ごうまん)ではないかと…。

 手術が終わって4年。歩けるようになったのに悩んでいるなんて、もったいない(笑)。感謝の気持ちだけは忘れずに生きていきたいんです。

(2007/07/13)

 

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