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俳優・演出家 高津住男さん(71)(下)

「ありのままが一番」という高津住男さんと妻の真屋順子さん=東京都板橋区


 ■つくろわず開き直って 車椅子のまま舞台復帰 演劇への考え方も変化

 「ありのまま」を合言葉に、車椅子(いす)生活を過ごす女優の真屋順子さんと、夫の高津住男さん夫妻。もどかしさを覚えながらも、介護生活から学んだことも少なくなかったようです。妻の闘病を支える生活の中で、どんな心境の変化があったのでしょうか。(聞き手 柳原一哉)

 「ありのまま」と言いましたが、妻と違って私は当初、とてもそんな気持ちになれませんでした。マスコミに公表するのを避け、ときどき出ていたNHKの番組には、「妻が複雑骨折で出演できない」と言い続けました。脳の病気は女優生命にかかわると思ったのです。

 一方の妻は「自然に分かればそれでいいという心境だった」と言っていましたね。脳出血を起こし、病院のベッドで過ごした1カ月半。妻は退院の日、「人込みが恋しい」「ショッピングをしたい」と言い出し、池袋のデパートへみんなで行きました。

 じろじろ見られたり、ひそひそささやかれたりしたため、妻は「無遠慮な視線だった」と述懐しています。でも、「堂々としていればいい」「これが本当の私の姿だ」と。妻は最初から開き直っていました。

 足を支える装具にしても、ズボンの中に入れて隠す障害者が多いけれども、妻の場合は外から装具が見えていますね。

 私はある時点で、妻がいくらリハビリしても元通りに回復するのは難しいだろうなと思い始めました。であれば、舞台に復帰するにしても、運命を受け入れて開き直り「ありのままの真屋順子を見てください」というしかありません。

 で、車椅子ごと舞台に上げちゃえ、って。前向きな気持ちがあれば、お客さんは納得してくれる。そんな気持ちで妻に舞台劇『出雲の阿国(おくに)』に復帰してもらったのでした。

 完璧(かんぺき)でなくても、取り繕わず。妻の好きな言葉「まあまあ」でいいのです。

                  ■□■

 私生活は、ヘルパーが来てくれるといっても、家事、介護は大変です。まず、私は家事ができない。頼まれた買い物を途中で忘れ、古本屋で本を買って帰るような亭主です。これまで、家のことは妻に任せきりで、芝居に打ち込んできましたから。

 稼ぎも妻の方が上なのに、そのことに鈍感で、妻は「(劇団に)吸いとられちゃう」と言っていました。私は乗用車を使うのに、妻は電車でテレビ局に行っていましたしね。

 自分の使った食器を流しに持っていくことさえしたことがなかったし、トイレ掃除に挑戦して、はねた水が顔にかかると、情けない気持ちになりましたよ。

 今ではずいぶんと要領がわかってきましたが。

                  ■□■

 介護は、リズムの違いをどうするかですね。私は私のリズムで動く、妻は障害者のリズムで動くから、私から見ると、もどかしくなるんですね、どうしても。

 例えば、私が何かをしようとしたときに、妻から「ペットボトルを取ってほしい」と言われたとします。ペースが乱されるのに、断れない気持ちがあるから、「後にすればいいじゃないか」と思っちゃう。逆に、今日はいい介護ができたなと思っても、相手はそう感じてないことがある。

 介護に慣れてきた今でも、私が妻の身体を無理に動かそうとして「痛い」と言われることもある。だから、ゆっくり、しっかり、一つひとつの動作をやる。さっさとやっちゃいけない。

 この場所からあの場所へ左足を動かすとする。足を持ちあげて、目的のところへ置いて、はい、じゃあ次は、と一呼吸置いて、左腕に集中して、また動かして、と。

 もどかしいし、家事もつらいし、自分の部屋に戻ると素っ裸になって、「ああ、やってらんねえ」って口に出すこともありますよ、月に1度は。共倒れは避けたいから、そうやって自分を慰めているんだと思いますね。

 逆に、こうした介護生活のもどかしさの中で、学んできたのは、物事は正確にゆっくりと手順を踏んで初めて、スピードを出せるようになるということですよ。

 演技の動作もそうだし、セリフも意味をよく吟味した後に声にするとうまくいくのです。

 頭だけで演劇や芸術を論じてもだめで、現実に生活体験を踏まえてこそだと思いますね。そうして演劇への考え方も変わってきました。

 今は、妻も出演する舞台劇「人形師 忠三郎 千夜一夜」が今月末に行われるので、2人でそのけいこに励んでいるところです。

(2007/07/20)

 

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