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自らもがんと闘う医師(上)

加藤大基さん


 □加藤大基さん(36)

 ■腫瘍の影 自身で確認/検査・手術、苦痛重ね/精神ケア 早期に必要 

 多忙を極め、医師としての生活に疲弊していた加藤大基さん(34)ですが、自身ががん患者となって、新たに医師として生きる道を見つけたといいます。(聞き手 北村理)

 がん治療にたずさわってきた私が肺がんになって、「がん患者の気持ちが分かる医師になったのでは」といわれることがあります。

 しかし、実情は、がん治療に苦しみ、がんの転移に不安を覚えながら日々を過ごした一患者にすぎなかったのかもしれません。

                 ◆◇◆

 昨年春、なんとなく胸に圧迫感を感じたので、定期検診を受けるようなつもりで診察を受けたのが、ことの始まりでした。

 結局、この圧迫感と肺がんとは関係なかったのですが、X線レントゲンに映っている腫瘍(しゅよう)の影を、自分の目で確認するはめになりました。

 私は喫煙歴もなく、年齢も34歳だったので、にわかには信じ難いことでした。

 腫瘍を確認して、まず驚いたのは、腫瘍が明瞭(めいりょう)な円形をしていたことです。このタイプは、他臓器からの転移性がんであることが多いのです。あわてて携帯電話のカメラでレントゲン写真を写し、放射線科の同級生に送り、意見を求めましたが、ともかくCTで検診をしてみようということになりました。

 肺に転移するがんはいろいろありますが、その代表的なのが大腸がんです。検査までの間、不安だったので、自分で自分の肛門に指を入れて触診をしてみました。これまでに多くの直腸がん患者の直腸検診を行ってきた経験では、直腸がんの場合、指先にゴツゴツした感覚を覚えるものですが、幸い、そういう感覚はなくて、ちょっと安心しました。

 CTで1枚1枚画像を見るときは、本当にどきどきしました。最悪のケースは、肺全体に小さながんが点在しているケースです。こうなると、ほかの場所にあったがんが転移した可能性がある。

 自身が医師でも、こうした可能性が頭を巡り始めると、訳が分からなくなるものです。しかし、病巣以外には腫瘍らしきものは見あたらない。画像診断を専門にしている後輩に聞くと、「良性かもしれない」という。不安な心境下では、人の意見に大きく左右されてしまうことを感じました。

 転移性のがんかどうかをさらに精密に調べるため、造影剤を利用した別のCT検査を受けました。造影剤を静脈注射すると、燃えるような熱さを全身に感じました。以前、私が当番をしていたときに、泡を吹いて意識を失った患者さんのことを思い浮かべました。私もあまりの苦痛に途中で検査を中断してもらおうかと思ったほどでした。

 このほか、腫瘍(しゅよう)マーカーやPET(陽電子放出断層撮影)の検査も受けました。これでようやく、レントゲンで確認された肺がんのほかには、がんらしいものはなさそうだ、という所までたどりつきました。

 しかし、ここまでしても、がんの正体が分かったわけではない。手術前に、消化器の内視鏡検査、脳への転移を調べるMRIの検査も受けました。

 こうしてレントゲン検査から1カ月後、ようやく左肺の1・5センチほどの病変を目標にした手術の戦略が確定しました。手術で腫瘍を切除したうえ、病理検査をへて、やっとがんだと診断されたのです。

 そこへ来るまでの不確実性は、がん特有のもので、「死ぬのではないか」という不安、度重なる検査や手術の苦痛など、それらが患者の精神面にもたらす重圧は計り知れないと感じました。

                 ◆◇◆

 がん患者を経験した今、感じるのは、入院初期からの精神的ケアの必要性です。ところが、忙しい担当医と話せる時間は、1日に多くて数分、短ければ数秒です。

 しかも、患者は病院で緊張しがち。医師の私でも、研修医の巡回にさえ、反射的にベッドの上で正座してしまい、思わず苦笑いしたほどでした。医師が患者から話を引き出す余裕を持ち、雰囲気づくりをすることも必要だと感じました。

 病院での治療が一段落すれば、今度は再発との闘いです。

 これも、患者となって初めて気づいたことですが、私のような初期のがんでも、再発の確率は諸説あり、情報が氾濫(はんらん)している割には、意外と信頼できる情報が少ないのです。

 がん治療を行ってきた医師の私ですらこうですから、一般の患者さんの不安はもっと大きいのではないかと思います。

 医師として、がん患者さんを診ていたときには、自分では不安に耳を傾けていたつもりでしたが、なかなか分かっていなかった。がん患者となって学んだことといえば、そのことだった気がします。

                  ◇

【プロフィル】加藤大基

 かとう・だいき 昭和46年、名古屋市生まれ。東大病院放射線科登録研究医。東京大学医学部卒業後、東大放射線科を経て、癌研付属病院、国立国際医療センター、東京大学医学部付属病院などで放射線治療医として勤務。昨年5月、左胸部に初期の肺がんがみつかり、闘病記『東大のがん治療医が癌になって』(ロハスメディア)を著した。

(2007/08/09)

 

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