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自らもがんと闘う医師(下)

がんになって死と直面したことで、どう生きるかを改めて意識したという加藤さん


 □加藤大基さん(36)

 ■激務から距離を置き 死への意識、傍らに 後進と医師の道考え

 医師であり、自らもがん患者である加藤大基さんは、がん患者の精神面への対応が必要と訴えます。しかし、医師の人手不足などで、サポートに限界も感じています。高齢化により、日本人のがん罹患(りかん)率も高まるなかで、がんと共存する意識を広める役割を果たしたいといいます。(聞き手 北村理)

 がん治療では、患者の精神面の負担が非常に大きい。医師は、そうしたがん患者の精神的ケアを念頭において、治療にあたるべきだと思います。

 しかし、医師の立場でいうと、「医療崩壊」という言葉に示されるように、現実にはそうした余裕はありません。

 そもそも、私が医師になる道を選んだのは、高校生のころ、「ドクターハラスメント」といわれる医師による患者被害の報道があり、自分ならもっと患者さんに親身になってあげられる、と思ったからです。放射線科を選んだのも、全身が診られるからでした。

                 ◆◇◆

 しかし、現場の忙しさは想定外でした。特に放射線科はもともと医師数が少ないので、10年選手でも、病棟からの呼び出しの1番手であることが多いのです。

 また、外来と入院病棟をかけもちするのが実態で、泊まり明けで外来を担当したり、外来で診療している最中に病棟からの呼び出しに対応しています。病棟から呼び出しがかかると、外来の患者を待たせることになる。外来もがん患者だと、患者も負担ですし、待たせている医師にとってもストレスです。

 特に、がん患者など多数の重症患者を病棟で抱えると、それこそフル回転で、休みはおろか、睡眠すらとれない状況に陥ってしまいます。

 勤務医になると、「食べられるときに食べておけ」「寝られるときに寝ておけ」といわれますが、現実にそんなことがいつもできるとは思えません。

 私の場合、就寝中に呼び出されると、ふたたび眠れないたちで、一時は神経をすり減らし、昼夜を問わず鳴る携帯電話や、あらゆる電子音に過剰反応するようになってしまいました。

 ある時、受け持ち患者を巡回し、異常がなかったので、院内でシャワーを浴びていたら呼び出しがかかり、食道がんの患者さんが大出血を起こしたとのことでした。

 進行がんで、いつ出血を起こしても、おかしくない状況でしたが、数十分前まで会話を交わしていた人が突然の出血で亡くなったのです。

 事前にこうしたことが起こりうるとは、家族にお話はしていましたが、やはり担当医としては、その場にもっと早く駆けつけるべきだと思いました。

 しかし、このことは担当医の少ない放射線科の現状の一端を示しているともいえそうです。

 ドクハラのない医療を目指し、医師になったわけですから、自分なりに丁寧に患者さんと対応し、一緒に病気と向き合おうとしたこともありましたが、そんなことをすればするほど、自分の首をしめる結果となったような気がします。

 勤務医の生活に疲れ、第一線を退こうと考えたこともありました。同時期にがんであることが判明し、結果的に、現在は外来のみの勤務となっています。

                 ◆◇◆

 今後は、がんの再発と闘わなければなりませんし、勤務医として第一線に復帰することは難しいかもしれません。

 しかし、がんになった医師にできることとして、母校の東京大学で、医師になる学生の教育に携わることを考えています。患者の人生にかかわる医師という仕事を、どう考えるかといったことなどを、学生たちと一緒に考えてみたいと思います。

 また、国の助成金による死生学の研究にも参加しました。私は、今の日本の医療の問題の一端は、患者が医療を過信していることにあるのではないか、と感じています。病気になっても、病院に行けば治してもらえるといったかのような。それが、医師への過剰な負担になっているともいえるのです。

 死を見つめることは、生を突き詰めることでもあると思います。

 私自身、がんになる前は、勤務医としての仕事に疲れ、厭世的(えんせいてき)になっていたこともありました。しかし、がんになったことで、多くの人の支えで生かされていることを強く感じています。

 がんによって、常に死を意識せざるをえなくなった今、より健康に気を使い、一日一日を大事に生きようという気持ちになっています。

 こうした経験が、日本のがん対策の一助となればと願っています。

(2007/08/10)

 

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