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歌手・米良美一さん(36)(下)


 ■「もののけ姫」後どん底/整体通い心の闇を実感/ヨイトマケの唄で開眼

 難病の先天性骨形成不全症を乗り越えたクラシック歌手の米良美一さんは、映画「もののけ姫」の主題歌のヒット後、思わぬスランプに陥りました。しかし、幻想を断ち切り、自分をありのままに受け入れる努力を重ね、5年に及ぶどん底から抜け出したといいます。(聞き手 中川真)

 ぼくは世の中では少数派のタイプです。裏声の高音で歌い、小柄で、バイ・セクシュアルな感覚もある。音大時代は、それらが個性と受け止められました。オランダ留学後、音楽界で一定の成功も得ました。

 当時は、人から「美しい」「かわいい」と見られたくて、虚像ばかり追い求めていました。

 平成9年、宮崎駿監督の「もののけ姫」の主題歌のお仕事をいただきました。でも、ほかの芸能人と並ぶと、自分だけ外見が美しくないことが分かり、愕然(がくぜん)としました。

 冷ややかな視線、まるで、ぼくが「もののけ」と思われているような気がして、とても落ち込みました。素晴らしい作品なのに、どうしても神秘的な世界と一体になれずに苦痛でした。筋肉や骨に問題を抱えており、ハードスケジュールで無理もたたりました。

 ぼくの病気は、音楽家にとって大切な呼吸器や耳にも影響を与えると言われています。例えば、一般の人より多いとはいえ、右の肺活量が左に比べて少ないんです。

 「もっと動いてくれれば、楽に歌えるのに」。ほかの機能でカバーしようとするので、体に無理が生じ、「気」が流れなくなってしまいます。まるで、自分の羽を抜いて生地を織る戯曲「夕鶴」の鶴ですよ。自分を苦しめながら歌っていたんです。

                  ◆◇◆

 29歳のころから約5年間はどん底でした。声は出ないし、トークもさえない。不整脈で更年期障害のような感じ。今よりも老けていました。

 「張りぼて」の自分を見せつけられました。ごまかして活動を続ける芸能人も多いですが、ぼくはできなかった。酒や性におぼれる暮らしも経験し、スキャンダルの対象にもなりました。

 横綱朝青龍が注目されていますが、ぼくには、彼の気持ちがよく分かる。本当は有名になる前に、心技体の「心」を作るべきなんですが、才能のある人は、その前にパーッと世に出てしまう。ぼくもそうでしたね。たとえ横綱でも、順番が逆になることはあるんです。

 だから、彼をつぶしちゃいけないと思います。こういう時期は、天が作ったカリキュラムなんだと思いますから。

                  ◆◇◆

 ぼくが立ち直るきっかけとなったのは、知人に紹介された整体の先生との出会いでした。起こってしまった病気を治すのが西洋医学なら、人が抱える根本を治すのが東洋医学。いままで、自分の弱さを病気のせいにしていましたが、根っこから治す時期に来ていたんでしょうね。最初は痛そうで嫌でしたが、4年近く通いました。

 先生は自分にも他人にも厳しく、「癒やし」とは程遠い人。ぼくの弱い面をビシッと指摘してきます。そうしたことの繰り返しから、「自分の心の中に闇がある」と実感するようになりました。

 そのころ出合ったのが、美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」です。歌の主題って恋愛が多いですよね。クラシックなら貴族的な世界や自然の美しさなどです。でも、ヨイトマケは、貧しい建設労働者だった母親をしのぶ歌。まるでぼくのために作られた歌だな、歌いたいな、と心底思いました。

 「天使の声」のイメージは損なわれるかもしれませんが、男の地声で歌おうと決めました。それで人気がなくなったら、施設の慰問でもして、1人でも聞いてくれればいいじゃないか。それくらいほれました。

 歌うことで、忘れたいと思っていた過去が、嫌じゃなくなりました。養護学校にいたこととか、親の仕事とか…。隠していた過去を明らかにしたおかげで、重荷を降ろし、開放的に歌えるようになりました。

 スランプのころも、一度も「死のう」とは思いませんでした。難病の経験があったからです。一度でも死にかけた経験のある人は、そう簡単には死のうと思わないものです。

 ぼくがどん底から抜け出せたのは、整体の先生が「目の上のたんこぶ」の役割を果たしてくれたからでしょう。都合の悪い指摘を受け入れないと、なかなか抜け出せません。我流で人生をコントロールするには、限界もあります。

 悩んでいる人は、賢明な助言者を持つべきですね。そういう存在は身近にいるはずです。運が悪いと思う人は、運が落ちるようなことをしないことです。悪口、ねたみ、恨み。この3つをやめるだけで、運は開けてくると思います。

(2007/09/07)

 

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