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女優、坪内ミキ子さん(67)(上)


 ■頼れる「ゴッドマザー」/階段で転び寝たきりに/振り回されてパニック 

 日本テレビ系「おもいっきりテレビ」のコメンテーターなど、多方面で活躍する女優の坪内ミキ子さん(67)。10年前に96歳だった母親、操さんが倒れ、102歳で亡くなるまでの約6年間、介護を経験しました。坪内さんにとって、倒れるまでの母親は頼りになる「ゴッドマザー」。その母親が倒れて以来、すっかり変わってしまったことが、介護での一番の苦痛だったと振り返ります。(聞き手 佐久間修志)

 介護が始まったのは、母が96歳の誕生日を迎えて1カ月の平成9年8月でした。階段で手すりをつかみ損なって倒れたのを機に、母は全く動けなくなってしまいました。

 その日の夜から、母は寝ることもできなくなり、私は何度も「トイレ」と起こされるようになりました。便秘がひどくなってからは、食べ物もほとんど口にしなくなってしまいました。無気力になり、動かなくなり、昼間でもただ座っているだけになってしまったのです。

 それまでの母は、寝たきりになってしまうと私に迷惑がかかる、だから食べ物にも気をつけ、おしゃれして元気であろうとしていました。今は何がはやっているとか、社会的な傾向も研究していました。年齢的な衰えはありましたが、体はほとんど悪くありませんでした。

 母はいつも私のサポート役。私の出演するテレビを見ながら、服装がどうとか、話し方がどうとか批評する、スタイリスト兼モニターでした。私が母をサポートするのは、冷え性の母が外出する際に毛布を何枚も持っていったりとか、その程度でした。

 階段で転んだといっても、骨折などはありませんでした。けれども精神的に参ってしまったんでしょう。あんなに気をつけていたのに転んだ、転んだから寝たきりだ。そんな方程式を自分に当てはめてしまったようでした。96歳で、もう回復するわけがないと思ってしまったんでしょう。

                  ◆◇◆

 転倒して、入院するまでの2カ月は、ほとんど寝かせてもらえませんでした。トイレも頻繁でしたが、枕の位置がずれているとか、足にかかる布団を押さえてくれとか。揚げ句の果てに心臓が締めつけられる、死んでしまいたい、などと訴えがエスカレートしていくんです。

 5分とおかずに呼ばれる状態で、私自身もパニックになってしまいました。安定剤や睡眠薬も試しましたが、30分も寝てくれません。あまりのつらさに「夜だけでもおむつをして」と泣いて頼んだこともありました。母の気持ちを思いやる余裕がなかったんですね。

 このままでは、参ってしまうと、ヘルパーさんに頼んだりもしましたが、しばらくして夫が軽い狭心症を起こしてしまいました。夫のいる病院に行こうとしても、母が許してくれません。自分のわがままとは承知しているはずなのに…と、途方にくれてしまいました。

 私が当時、書いた日記には、「誰か代わってくれ」「口をきくのもいや、しんどい」と、悲鳴ばかりが並んでいましたね。

 今にして思えば、母のわがままは、心の葛藤(かっとう)の表れだったと思えるんです。たとえば、余命何日と宣告された人で、穏やかな気持ちで受け止められる人がどれくらいいるでしょうか。きっと、はじめは受け入れられずに抵抗するんじゃないか。それと同じような気がするのです。

                  ◆◇◆

 ただ、当時の私には、そんなわがままな母が受け入れられなかったのも事実です。

 母はもともと、生きざまというか理想みたいなものがあった人でした。どちらかといえば、わがままをたしなめる側の人間でしたし、人に理解のない態度を取ることはみっともない、紳士淑女のすることじゃないといっていました。

 それが母のいいところだったのですが、倒れてからは、そんなこだわりがなくなってしまった。「あんなふうに言っていた人がどうしたのよ」って思いますよね。周りへの気遣いも人一倍、あった人だったんですよ。それが一番みっともない面をみんなに見せている。「私の母はそんなんじゃないのっ」っていうくらい情けなかった。私も受け入れ難かったんですね。

 母は「うそをついたり、人に後ろ指を指されるようなことをしたら、私も一緒に死にますからね」と言っていたほどの君子でした。でも、一生懸命突っ張ってきたものが、倒れたことによって、すべてなくなったんでしょうね。

                   ◇

【プロフィル】坪内ミキ子

 つぼうち・みきこ 昭和15年、東京都生まれ。早稲田大学文学部在学中に大映「陽気な殿様」で女優デビュー。その後も「座頭市」などの映画や、大河ドラマ「太閤記」(NHK)、「意地悪ばあさん」(フジテレビ系)などに出演。女優業以外にも、クイズ「連想ゲーム」(NHK)のレギュラー解答者として、マルチぶりを発揮した。現在は「おもいっきりテレビ」(日本テレビ系)のレギュラーパネリスト。明治の文豪、坪内逍遥は祖父。

(2007/09/20)

 

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