産経新聞社

ゆうゆうLife

歌手 アグネス・チャンさん(52)(上)


 ■乳がん告知され涙 悩んだ末の温存手術 経験者の応援支えに

 女性の20人に一人がかかるといわれる乳がん。乳がん撲滅月間の今月1日、乳がん手術を受けた歌手のアグネス・チャンさん(52)は「女性の社会的な重要性は増すばかり。だからこそ、自分の健康を振り返る時間をつくって」と呼びかけます。(北村理)

 胸の違和感に気づいたのは9月19日。中国でのコンサートが延期になって、日程が空いたので、朝、子供を学校に送ってから、寝転がってテレビを見ていたんです。

 そしたら、胸にちょっと違和感があったんですよ。触ってみたら、しこりを感じたんです。本当にちっちゃいしこりなんですけど。

 明らかに、胸の中に異物がある感じがした。自然にあり得ないものが入っているなぁと。

 かかりつけの産婦人科の先生は「これは、総合病院で検査した方がいい。ここでは判断つかないね」と。それで、聖路加国際病院に行ったんです。精密検査の結果が出たのが25日でした。

 電話を受けたのは、夫(事務所社長の金子力さん)だったんですけど、見てたら、「あー、そうですか」といいながら、急に顔色が真っ暗になったんです。

 その瞬間に分かりましたね。やっぱり乳がんだと。すぐ、病院に説明を受けに行きました。

 車の中で泣いちゃったんですよね。でも、夫が「説明を聞いてから泣きなさいよ。今すぐ死ぬとかいうことじゃあないんだから。寿命が来たら誰でも死ぬんだし」といってくれたんですよ。それで、気を取り直して、先生のお話を聞いたんですけど…。

 粘液性の珍しいがんで、1〜2センチと小さいけど、しっぽがあって、リンパ節の方を向いていたらしいんです。「手術は待てますか。クリスマス過ぎると、スケジュールが空くので」と相談したんですが、先生は「1、2カ月も待てない」ということでした。

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 日程をキャンセルして皆さんへの迷惑を最小限にしようとすると、10月しかありませんでした。10月1日に手術をして、5センチほど切ってもらいました。がんは、初期で予後の良いがんでしたが、お医者さまからは「あなたの年齢では、十分あること」といわれました。

 結果として、乳房の温存手術になりましたが、全部切るかどうか、やはり迷いました。手術の前日に、私の主治医でもある姉が香港からやってきて、「ちょっとでもリンパ節に飛んでいたら全部切りなさい」といったんです。一時は、そのつもりでいました。覚悟はしてました。

 ただ、聖路加の先生は「いきなり全摘出は、体に負担がかかるので、良くない」ということでした。だから、手術当日まで話し合って、結局温存の方が良いだろうということになりました。全摘していたら、復帰はこんなに早くなかったと思います。

 ただ、温存したので、化学療法は受けませんが、11月から放射線を1カ月半、年明けから、ホルモン療法を受けることになっています。

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 がんだということが分かって、応援のメッセージをくれるのは、同年齢のがん経験者が多いんです。

 私は、たまたま自分で見つけました。でも、家庭の主婦は忙しいので、どうしても自分のことは後回しになります。

 メッセージをくださった方の中にも、誰にも言わず、家族にも明かさず、悩みを1人で抱え込んでいるお母さんもいました。

 ましてや、仕事のある兼業主婦は、たぶんストレスも大きいと思う。ホントに、頭忙しいですよ。仕事、子供、家事、親族の人間関係とかね。

 だからこそ、習慣として、自己検査をやってもらいたいですね。自分で自分の健康を振り返る時間をつくってほしい。私みたいな健康フリークでも、がんになってしまう。これは仕方のないことだと思う。

 女性って、意外と自分のおっぱいを自分で触ったりしないもの。でもね、明らかに分かるんです。特にお風呂に入ったときに触ると、けっこう分かる。

 私は今回の出来事は、運命的だと思う。手術のあった10月1日は、ピンクリボン(乳がん撲滅啓発月間)のスタートの日。手術の後、「東京タワーがピンク色になったのよ」と教えてもらいました。

 がんと分かる直前に、がん患者支援の会「リレーフォーライフ」に出てました。あとで、患者の方からEメールが来て、「がんで亡くなられた人の魂が、きっと知らせたのよ」とね。

 それを見たとき、大泣きに泣きました。ありがとうって。

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【プロフィル】アグネス・チャン

 あぐねす・ちゃん 本名、金子陳美齢。1955年、香港生まれ。日中国交回復の72年に来日、歌手デビュー。翌年、日本レコード大賞新人賞。芸能活動のかたわら、カナダ、米国などで学び、教育学博士を取得。2005年、ペスタロッチー教育賞を受賞。大学で教壇に立ち、著作も多数。近著は『マザー・テレサ 26の愛の言葉』(主婦と生活社)。日本ユニセフ協会大使。

(2007/10/25)