産経新聞社

ゆうゆうLife

タレント・大橋巨泉さん(73)(下)


 ■人間ドック受け続け「37打数1安打」で胃がん発見し命拾い

 “目の成人病”ともいわれ、国内に約300万人もの潜在患者がいるとされる緑内障。8年前から治療を続ける大橋巨泉さん(73)は自身の体験を振り返り、「少しでも長く、生活の質を維持したいなら、早期発見に努めるしかない。年に1回は目の検診を」と訴えます。(横内孝)

 1999年9月に緑内障と診断され、「そろそろもたないから、手術をしましょう」という主治医の勧めで、半年後、網膜剥離(はくり)の手術を受けました。66歳でした。

 目に麻酔の注射を打つときが一番怖かった。こんなでっかい、旧ソ連の国旗についてる鎌みたいな注射器がガーッと迫ってくる。それで先生がこう言うんです。「大橋さん、この注射、痛いですよ。手術台の脇をしっかりとつかんでいてください。痛くても、決して顔を動かさないでください。眼球とか、視神経に刺さったら大変ですから」

 ジューッと注射液が入って、麻酔が効くと楽になりましたけど、その数秒間はぼくの人生の中で一番怖くて一番痛かったんじゃないかな。

 術後はもっと、ひどかった。剥離した部分をくっつけるために、丸2日間、下を向いて生活するんですよ。テレビも見られない。寝るときも輪っかみたいなものを使って、その中に顔を埋めて。後で聞いたら、痔(じ)の患者さんが使うものだそうで、もちろん、新品だからきれいなんだけど、あれは笑いました。

                   ◇

 術後、網膜剥離の検査は年1回になりましたが、緑内障の方は今も年2回通っています。毎日決められた時間に3種類の目薬を5回に分けて差して、眼圧をコントロールしています。この2、3年は以前に比べ、効き目が持続する薬が開発されたので、すごく楽になりましたが、8年前は、点眼回数が多くて、とてもつらかった。

 今は医学や医療がどんどん進歩していますから、先生のいうことを一生懸命守っていれば、生活はどんどん楽になる感じです。ただ、緑内障は治りませんから、それはちょっと寂しい。

 手術のおかげでゆがみはなくなったのですが、緑内障(のせい)で、視野が狭くなりました。今、左目が何%見えるのかよく分かりませんが、見えない部分があります。鼻寄りの部分は視野が欠けています。正直つらいです。でも、できることなら、死ぬまでこのくらいの状態を保てるといいのですが。

 目はどんどん劣化しています。映画を見るのはつらくなったし、新聞や雑誌もしょっちゅう同じ行を読んじゃうんです。新聞は広告ばかりあんな大きな文字で、肝心の文章はあの字体。みんなが読める大きな字にしたらどうでしょう。

                   ◇

 主治医によると、40歳以上の日本人の約20人に1人が緑内障だそうです。自覚症状が出にくく、緑内障患者の8割〜9割が眼科を受診していないというんです。失明を予防するには、早期発見、早期治療が重要ですから、ぼくは緑内障の啓発や早期発見のイベントなどに進んで参加するようにしています。

 目が見えなくなったら、こんな不便なことはない。人間っておれだけは死なないとか、おれだけはがんにならないとか、思いたくなるんだけれど、だれでもなる率は同じ。

 ぼくは健康オタクなんですが、大学3年生のときにおふくろを子宮がんで亡くしています。そのことが本当に悔しくてたまらない。いつかぼくも死ぬ。あの世でおふくろにあったとき、「お前、ばかだね。せっかく母さんが命をかけて教えたのに早期発見できなくて、こんなに早く来て」としかられるより、「良い子だったね」と褒められたい。

 だからありとあらゆる検査を受けてきました。37年間人間ドックを受けてきて、一昨年、初めて胃がんが見つかりました。37打数1安打ですね。ひどい打率ですが、1発当たったおかげで命が助かりました。幸い早期で、胃は半分取られましたが、元気です。

 人間は少し長く生きすぎている。人生50年は、今や80年の時代です。加齢性、老人性の病気を患う人が増えているのはこのせい。だからこそ、一人一人が早期発見に努めなければならないと思うんです。

 目の病気の発見はまったくの偶然でしたが、ぼくが今、皆さんに言えることはただひとつ。年に1度は目の検診を受けるべきだということです。通常の人間ドックでやる視力と眼圧の検査だけじゃなく、眼底と視野を含めた4つの検診を受けてください。できれば、保険診療でこうした検診が誰でも気軽に受けられるようになってほしい。そう願っています。

(2007/11/08)