産経新聞社

ゆうゆうLife

漫才コンビ、宮川大助・花子さん(上)


 ■大助さんが脳出血に 闘病生活で気付いた家族と笑いの大切さ

 息のあった明るい夫婦漫才で人気の宮川大助・花子さん。結婚して32年。その間に、ともに大病を患い、夫婦で苦難を乗り切ってきました。大助さん(57)は昨年、脳出血で倒れました。病気になって改めて気づかされたことも多かったそうです。今日は大助さん、明日は花子さんの話を連載でお届けします。(永栄朋子)

 去年の2月でした。ダンスのけいこが終わって、一段落しよかと床にへたりこんだとき、血管が裂けるような音がしたんです。「えっ?」と思った瞬間にしびれが走って、心臓がギューン、頭がグワンとして。「頭の線切れた」と言ったもんやから、騒然としましたよね、けいこ場は。

 歩かれへんし、どんどんひどくなる。これは何分かたったらしびれがまひに変わるんやろなと。救急車、呼んだら「30〜40分かかる」というんで、娘の肩をつえ代わりに近くの病院に行ったんです。

 病院が光ってみえるんですわ。天国の入り口に見えましたもん。「ああ、死んでいくんやな」みたいな。だから娘に「お父さんはわが人生に一切悔いはない。これだけは言うとく」言うて。

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 検査受けて「脳出血です」と言われたとき、「そら、なるわな」と思った。倒れる前は週に5日、整体受けてたくらいしんどかったし。1年半くらい、ずっと体調悪かったですしね。

 でも、親譲りでB型肝炎持ってたから、調子が悪いのは「肝臓のせいや」と思いこんでた。検診も年にせいぜい1回。仕事休んで病院行くのも勇気いるしな。

 「今晩が峠です。安静にしててください」と言われて、「こりゃあ生活も大変やな」と。半身まひで言葉も失うと思ったからね。「せめて嫁はんが働いてる間、掃除とかして待ってられる生活になれたらええな」と。

 3カ月休むことになったけど、復帰なんて考える余裕はなかったです。それより、まひが残ったら人の手を借りなければならない。嫁はんがそばにおってくれるなら、誰が稼ぐねんと、超現実問題よ。

 それに、「次は脳にかかる負担がもっと軽くても出血する」と言われてるから、不安でウツも始まって。ヒステリーですね。マイナスの話聞くと、血圧が190くらいに上がって、のどにボールが挟まったような感覚になるんです。

 でも、不安にもなりますよね。体の中で絶えずビューンて体がしびれる音がするから、寝られへん。排便もおなかに力入れたら、頭の血管切れるんじゃないかって、怖いねん。排便ができないから食べるのも怖い。物もどんどん忘れるしね。

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 結局、1カ月入院、5月に復帰しました。退院したとき、それまで気丈に振る舞ってた娘が、初めて泣きまして。思わずもらい泣きしましたわ。

 今の体調は、倒れる前の野球バリバリやってたころに比べると、6割くらい。その6が安定してたらほっとしますねん。

 ひっくり返って「もう老後に入ったわ」と悟りましたわ。これからは嫁と娘に嫌われんよう、1年でも1日でも長く健康でおって、手間がかからないことが大切やと。

 以前はカキやイチゴにもしょうゆパッパかけて、漬物代わりに食べてましたからね。健康管理の悪さは、嫁と子供の小言に出てくる。嫁はんもずっと警鐘鳴らしとった。ただ「アンタ、そんな食べ方して」とか言われるほど腹立つもん、ないじゃないですか。「メシくらい黙って食わせてぇな」みたいな。

 ぼくは酒も飲まんし、たばこも吸わない。血液もサラサラ。血圧だけが高かった。しょうゆの塩分が原因。倒れて、嫁はんの小言は家庭の薬やと、嫌っちゅうほど分かりました。

 先生には「大助さんは治ったんやない。軽かったんや」と言われます。「この病気は自分で治すんです。高血圧が抑えられたら、脳卒中の半分は防げる。再発も自分で防ぐんです」と言われ続けた。だから、今は毎日2回、血圧測るのを欠かしません。

 元気やったころは健康のありがたさとか、人の痛みが分からんかった。漫才が「こんだけ楽しいことやったんや」というのも、何十年かぶりに振り返ったしね。

 軽かったから言えるんやろうけど、去年はひっくり返って最高の年やった。この年になると、時代に取り残される不安や不満が出てくるはずやん?

 でも、ひっくり返って感謝するものが生まれた。救い上げてもらったことが幸福やったし、家族や親子、会社といった周囲の環境に恵まれてることにも改めて気づいた。漫才が好きになって、嫁さんが好きになって…。新婚ですよ。いろんな意味で、今が人生最高やね。

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【プロフィル】宮川大助・花子

 みやがわ・だいすけ、はなこ 昭和50年、巡業先で出会い結婚。54年、夫婦漫才「大助・花子」としてデビュー。明るい夫婦ネタで人気を博す。花子さんは、33歳で胃がんを発症。大助さんは昨年2月脳出血で倒れ、5月に復帰した。漫才の第一線で活躍するかたわら、夫婦で高血圧予防のキャンペーン「ウデをまくろう、ニッポン!」のメーンキャラクターとして、血圧コントロールの大切さを訴えている。

(2008/01/07)