産経新聞社

ゆうゆうLife

漫才コンビ 宮川大助・花子さん(下)


 ■自身の闘病を糧に夫支えた花子さん「努力と無理違う」

 宮川大助・花子さんといえば、私生活でも舞台同様の仲の良さで知られます。しかし、人気者の階段を上る過程には、人には言えない努力や苦労、夫婦の危機もありました。昨日の大助さんに続いて、今日は胃がんを患った花子さん(52)に、自身や大助さんの闘病を振り返ってもらいました。(永栄朋子)

 わが家の縁側に干し柿がぶら下がってて、大助君、いつも盗んで食べるんです。子供の時、近所のカキ盗んでた習性で。

 去年のお正月、まさにカキを盗もうとする大助君と目があってな。言ったんです。「アンタ幸せやなぁ。昔は人の家のカキ盗んでたのに、今は自分の家のカキ盗める。長生きしいや」って。

 その1カ月後に倒れました。びっくりしましたよ。大助君、直前までマネジャーに「花子、体調悪そうやから、スケジュール抑えたって」て、私の心配してくれてたくらいやったから。

 集中治療室から出てきた大助君、いびきかいててな。「もうあかんわ」と思いました。家で食べ主のいないカキ見て「ああかわいそうやな」って。でも、「一番幸せなときに苦しみもなく眠れるんやったら、幸せなんかな」とも思った。

 それで娘に「何かあったら、お母さんの分の棺も用意してな」と頼んだんです。人生の幕引きと舞台の幕引きが一緒にできたら最高やと。

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 よく、大助君と私の病気を比較されるけれど、病気になった年も違うし立場も違う。私のときは「漫才さえ、せえへんかったら、病気になんかなれへんかった」という気持ちがあったからね。

 19歳で出会って、結婚して。いったんやめた漫才を大助君が「やろう」言うからやって。漫才で家庭も夫婦仲も悪くなって、大変やった。お互いの若さと健康が(病気に気付く)邪魔になりましたよね。若くて元気な大助君には、私のしんどさはわからなかったし。

 《当時を大助さんはこう振り返る。「10年かかる坂、1年で上りたかったから、なんぼけいこしても足らんのですわ。子供に『夕方帰るから』と約束したのに、けいこ場から駐車場まで帰って、車の中で夜中の12時までけいこ。ケンカしながらネタ合わせして。2人が笑うてるのは客の前だけ。『39度の熱? 関係あるかい』みたいなノリで。『おれらは死にかけとっても舞台せなあかんのや』って酔うてたとこがあったし、実際そう考えてたから」》

 今みたいに鬱(うつ)という言葉がはやってなかったけど、私は鬱やったんやね。歩くこともできなくなって、自律神経失調症で1カ月入院しました。その後も1年間、点滴生活。入退院を繰り返し、1年後に胃がんが見つかった。ストレスから胃がんになる人、多いみたいですね。まだ33歳やった。

 お笑い大賞とかでトロフィーもらっても「こんなもん、欲しいがためにやってきたんか」と、腹立ってね。「あんたのせいでこんな体になったんや」って、寝てる大助君の頭、トロフィーでなぐったろうかと思いましたよ。なんぼ仲良くても、夫婦って「こんなやつ死んだらええねん」って思うことあるやろ?(笑)

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 大助君が倒れたとき「夫婦仲がええときでよかった」って思いました。うそなしに献身的にやれたことは幸せやった。

 勉強にもなったしな。大助君、毎日血圧の記録取るようになったんです。努力と無理は違うって感じました。無理を努力と勘違いしがちやけど、努力は、血圧の記録を毎日、取り続けることで、血圧がバンって上がるような無理は努力じゃない。

 「漫才やっててよかったな」って、すごい感謝しました。1人で舞台上がって、やっぱり立ち直れましたもん。

 仕事に関しては私、3回変わってるんです。昔はだんなへの反抗だけでやってた。病気になったのにやめられなくて、なんでやめられへんの?って。で、娘が成人したんで、やめようとしたら、娘に「どうして自分のために生きないの?」と言われて、自分のために先頭、歩かなと。そして今回…。

 世の中、たくさんのだんなさんが、もっときつい病気で苦しんで、奥さんがこの年になってパートに出なあかんこともある。自分は漫才のおかげで大助君の病院費出せた。私には漫才がある、と。それは大きかったですよね。

 大助君は、なんやかんやいいながら、やっぱり満点を狙ってる。舞台下りて「あかんな」と落ち込んでるけど、「今のアンタを見て、お客さん喜んでるのや。それで十分やん」って思う。倒れて1年もたたない新参者が、何をいうねん。私は5年間苦しんだんや。アンタ見てたでしょって。

 大助君が倒れたとき、3日たったら灰になってたはずやもん。だから毎日「ああよかったな。今日も1日もうけたな」って感謝してるんです。

 今年もね、家に干し柿、ぶら下げてるんです。もう、7つもなくなってる。それを待ってたからうれしいねん。「人生帳尻や」って言うけれど、自分の人生にやっと帳尻があったなと感じてます。

(2008/01/08)