産経新聞社

ゆうゆうLife

ムコネット理事 中井まりさん(44)(上)

今も1週間に1度の点滴は欠かせない。腕は肩より上には上がらないが、最近は野球に夢中=大阪府豊中市(恵守乾撮影)


 □長男の難病と闘う

 ■国内300人のムコ多糖症 家族と白血球型合わず 骨髄バンク推進に奔走

 わが子が実は治療法のない難病と分かったら? 「ムコ多糖症支援ネットワーク」理事で大阪府豊中市に住む中井まりさん(44)は7年前、当時2歳の長男、耀(よう)君が国内に300人しかいない「ムコ多糖症」と診断されました。「家族が元気に暮らせれば幸せ」。そう思っていた普通の夫婦が、わが子を助けるため、骨髄バンク推進に奔走します。(永栄朋子)

 病気とは無縁でしたから、赤ちゃんはみんな、元気に生まれてくるものだと思っていました。治らない病気なんてドラマの中の話だと。でも、まさかわが子がこんなことになるなんて。

 私たち夫婦にとって2人目の子、耀(9)は9カ月に満たずに生まれました。当初2週間は保育器で育ちましたが、健康診断でもずっと「健康」「問題なし」だったんです。ただ、初めて抱っこしたときから体のかたさが気になりました。保育所の先生にも指摘され、お医者さんにも相談しました。でも、どの先生も「正常ですよ」と。

 実は体がかたいのはムコ多糖症2型の典型的な症状です。今思えば先天代謝異常の検査に引っかかるなど、他の症状も出ていたけれど、耀は一見、元気でしたから、病気だと思われなかったんです。

 いくつかの病院を経て病名が分かったのは2歳のとき。体内の代謝物質、ムコ多糖を分解する酵素がないため、ムコ多糖が体内にたまり、障害を引き起こすんです。「お母さん、心配せんでも、この子の背は伸びへんわ」と告知されたのが、今も耳に残っています。

 どうして、あんな言い方をされたのか。子供の身長が止まって、心配しない親はいないのに。しかも、ムコ多糖症は背が伸びないどころの話じゃないんです。成長に伴い、骨や関節が変形し、内臓や脳が侵され、多くの方が10〜15歳で亡くなってしまうんです。当時はまだ薬もなく、唯一、骨髄移植が症状緩和に役立つと言われていました。

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 もちろん、骨髄移植を望みました。でも、耀と私たち家族は白血球の型が合わなかった。命に代えても助けてあげたいのに、何の役にも立たないことがショックで。

 親戚はじめ、多くの方が検査してくださったけれど不適合。骨髄バンクにはドナー候補が3人いたけれど、結局、ドナーになっていただけませんでした。情報がほしくて参加した「親の会」でも「候補者は5人見つかったけど」「うちも5人」と、ドナー候補者に辞退された方ばかりでした。

 耀の肩甲骨はすでに変形が見られました。進行したら元には戻せません。骨の成長が著しい5歳までに、どうにか骨髄移植を受けさせたくて。当時、バンクの登録者は13万人。それで3人見つかったのだから、あと4万5000人増えたらもう1人候補者が見つかるかもしれない。でも、どうやって増やせばいいのか…。

 そんなとき保育士さんが「保育所の懇談会でお母さんたちに相談したら」と提案してくださったんです。

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 懇談会当日、最初は言い出せなかったんです。でも、「耀君がかわいい顔でバイバイしてくれる」とお母さん方が言ってくださるのを聞いて、思わず「骨髄バンクのドナー登録に協力してください。もし候補者になったら、断らないでほしいんです。耀は難病で…」と話してしまいました。

 泣いてしまったので、みなさん驚かれたと思います。でも、テレビ局勤務の方が耀のことをニュースで取り上げてくださり、お医者さんをしているママは「検査代、大変やろ?」と、納涼会で募金活動を提案してくださったんです。「働いていたら、平日にドナー登録に行くのはむずかしい」と、日曜日の出張ドナー登録会を実現してくださったママもいました。

 登録会の様子はニュースでも取りあげられ、78人もドナー登録してくださいました。出張登録会は、繁華街でも1、2人なのに。

 その後は骨髄バンク推進委員会の方と連絡を取り、セレッソ大阪(Jリーグ)の開幕戦の折りに登録を訴えたり。患者の母親が何もしないわけにはいかないと思って。耀も「ママの好きな骨髄バンク」と、手伝ってくれました。でも、日々、病気が進行していると思うとつらかった。いろんなことを自分に言い聞かせながら、ドナーが現れるのを待っていました。

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【プロフィル】中井まり

 なかい・まり 平成17年、支援者と「ムコ多糖症支援ネットワーク」(ムコネット)を立ち上げる。25年勤めた会社を辞め、現在は講演などを行う。著書に『命耀ける毎日』(青志社)。

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【プロフィル】中井耀

 なかい・よう 合気道と野球が好きな小学3年生。2歳で「ムコ多糖症2型ハンター症候群」と診断される。

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 ムコネットでは新生児の遺伝的病気の研究者への資金援助などに募金を募っている。振込先は三菱東京UFJ銀行長崎支店 普通口座0839641 「特定非営利活動法人ムコ多糖症支援ネットワーク」

(2008/02/21)