産経新聞社

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障害者の就職支援 工藤雅子さん(48)(下)

「IT機器の進歩で、障害者でもスキルを発揮しやすくなりました」。大きな特殊マウスでコンピューターを操作する工藤さん


 ■IT機器でスキル発揮/できない部分、説明を/企業側の理解も必要に

 身体障害者雇用促進研究所(サンクステンプ)のチャレンジド・サポート事業準備室長、工藤雅子さん(48)は何度かの転職後、サンクステンプで障害者の雇用支援をスタートさせました。工藤さんは企業側に障害者の可能性を訴えると同時に、障害者に「障害のせいでできないと思わないで」と語りかけます。(佐久間修志)

 現在は視覚障害者向けのパソコン教室や、主に知的障害者を対象としたビジネスマナー研修を業務にしていますが、かつては障害者の人材紹介事業(現在は関連別会社として独立)の立ち上げにも携わりました。当時はゼロから、丁寧に障害者の話を聞くことからスタートしました。

 障害者から「障害のおかげで○○ができない」という話も聞きながら、「では、どんなことがしたいのか」「何ができるのか」という方向に考え方を移していくようにしました。

 今でも思いだす相談があります。3年前、障害のためリストラに遭った男性が相談に来られました。仕事一筋で、職種のつぶしのきかない方でしたが、誠実な人柄とパソコンなどに前向きに取り組む姿勢がセールスポイントでした。特別なスキルはありませんでしたが、同時期に求人があり、誠実さが評価、採用されたんです。職種上、先方は組織になじむ人材を求めていました。

 当時、私が重視したのは、登録者のキャラクターと、会社の社風のマッチングです。長期的な就業につながるのは、本人のキャラクターと企業の社風がマッチした場合です。仕事は入ってからでも、いくらでも覚えられます。

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 障害者に対する企業のイメージは、「いつも誰かがその人をサポートしなければいけない」というものです。もちろんサポートが必要な場面もありますが、健常者と同じように働ける人もいることに気づいてもらうことが大事なステップです。

 パソコンができて、電話も取れてと、何でもできる人という要望をいただくこともありますが、やはり、サポートが必要な部分はあります。大事なのは、難しい部分を障害者自身がどう補っているかを知ってもらうこと。

 例えば、耳が不自由でも、口の動きを読んだり筆談したり、電子メールで指示を出すことはできます。それを理解してもらえば、「この人ならば仕事ができる」と認めてもらえます。

 特に今は、IT機器の活用もあって、障害者がスキルを発揮しやすい時代です。目が見えない人には文書を読み上げてくれるワープロソフトもあります。スピードは遅いかもしれませんが、仕事の結果として完成する書類は、健常者が作成するものと変わりません。

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 健常者と変わらず仕事ができる障害者もいますが、仕事ができないときは、障害が理由にされる傾向はまだ残っています。逆に、障害者の中にも、自分は障害者だからと甘えのある人もいます。

 障害があることは事実としても、できないことを障害のせいにしてしまったら、自分の成長のためにならない。前に進めないよ−。障害者に対して、そんな話をすることもあります。

 障害者雇用のもう1つの問題はコミュニケーションです。障害者は自分の障害について周囲に分かってもらいたい気持ちがあるのですが、周りの人は「聞いてはいけない」という思いもある。そんな行き違いで誤解が生じることが多いです。

 私は障害者に、「周りの人に何をしてほしいか伝えないと分からないよ」と言います。そこを理解してもらわないと、「あの人は仕事ができない」といった誤解も生まれます。

 例を挙げると、耳が不自由でも口の動きで内容を読める人は、面と向かってなら、健常者のように話をします。でも、電話の鳴る音は聞こえないので、電話を取らない。すると、「話しているときは聞こえているのに、電話は取らない」といわれます。それは説明しないと分からないことです。

 中には、固定電話の音は聞こえなくても、携帯電話なら聞こえるという人もいて、周囲は「ケータイで話ができるなら大丈夫じゃないの」と思ったりする。でも「電話が使えない」というと、採用してもらえないので「使えます」という。そういう例はたくさんあります。

 そういった誤解を生まないよう、企業側にも、障害者とのコミュニケーションの取り方を説明します。「聴覚障害の人には口を大きく開けて話す」「後ろから話しかけない」ーそんな講習も行っています。

(2008/02/29)