産経新聞社

ゆうゆうLife

元地域新聞編集長・太田知子さん(53)(上)


 ■離れて暮らす母が脳梗塞/リハビリ病院探しに奔走/補助器使い歩けるように

 離れて暮らす老親に介護が必要になったら−。元西多摩新聞編集長の太田知子さん(53)は、脳梗塞(こうそく)で倒れた母親を介護するため、往復5時間かけて実家に通いながら、働き続けています。母親を寝たきりにせず、介護の負担を軽くしたい。その一心でリハビリ探しに奔走し、高齢者がリハビリを受けられる所が少ない現実に直面しました。(寺田理恵)

 母(77)は平成18年1月に脳梗塞で倒れました。左の手足に力が入らなくなり、父(80)が内科に連れていったのですが、脳梗塞と分からず、いったん帰されました。私にも知識がなかったんです。脳梗塞だとピンとくれば、すぐに適切な治療を受けさせられたかもしれない。その夜、母は入院しました。

 母は北関東で父と2人暮らし。左手足が動かなくなったら、この先どうなるのでしょう。私と妹は結婚して家を出て、仕事を持っています。実家の近くに弟夫婦が住んでいますが、義妹もフルタイムで働いていますし、子供が小さい。母が寝たきりになったら、私たちの生活は一変します。最新の治療を求めて、脳神経外科に転院させました。

 リハビリは当時、2週間くらいたって病状が安定してから始めるのが一般的でした。ところが、なかなか始まりません。

 「ポータブルトイレを使わせてください」とお願いしましたが、「転んだら大変」とオムツにされました。

 寝たきりになってしまうのではないか。一刻も早くリハビリを受けさせたいと、回復期リハビリテーション病棟(脳梗塞などの回復期にある患者の社会復帰を目的として、集中的にリハビリを行う病棟)のある病院を探しました。母によくなってほしい、私たち娘の介護負担を減らしたい。その一心で、いくつもの病院を訪ねましたが、どこも満床でした。

 個室なら空いていても、差額ベッド代が1日1万5000円もかかります。母も個室に1人でいるより、大部屋を望んでいました。すぐに入れる病院は、1つもありませんでした。

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 あるリハビリ病院の評判を聞いて見学に行くと、訓練室には理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が何人もいて、一対一で患者に付き添っていました。患者さんが懸命にリハビリに励む様子を見て、この病院に何とか入れてもらえないかとお願いしました。3週間待ってようやく転院できたとき、倒れて6週間が過ぎていました。

 この病院では医師とPT、OTが連携してリハビリをしてくれました。脳神経外科では20分〜30分だったリハビリが、リハビリ病院ではPTやOTがついて、脚と手の訓練を45分ずつ受けられました。言語聴覚士もついてくれたんです。訓練室が休みの日は、看護師さんが廊下などでリハビリをさせてくれました。

 4人部屋では母が一番年上。40代や50代の人と一緒でした。若い患者さんが多く、みな必死でしたね。周りの雰囲気に加えて、家に帰りたがる母を「歩けるようになるまで帰れないよ」と脅かすように励ましたのも、効果があったかもしれません。母はずいぶん回復し、歩行補助器を使って歩けるようになりました。

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 この病院のリハビリは素晴らしいのですが、入院期間は最長3カ月と決められていました。母は介護老人保健施設(病院と在宅の中間施設)に移りました。リハビリに力を入れている所を探しましたが、老健では20分程度で週2回だけ。物足りませんでした。「歩行補助器を使ってトイレに行かせてほしい」と頼むと、「事故の危険がある」と断られたのです。そこで、私や妹が行ったときは必ず、廊下で歩く練習をさせました。

 厚生労働省の調査では、介護が必要になった原因で最も多いのが、脳梗塞などの脳血管疾患です。リハビリを充実させれば、要介護者を減らすことができ、介護給付費も減らせるのではないでしょうか。

 母が倒れた日から26日後、西多摩新聞で介護日記の連載を始めました。家族がどう思い、行動したかをリアルタイムで書き残したいと思ったからです。働きながら、病院や老健に通い、実家にも寄ると、車で往復する時間だけで6時間。家事をしたことのない父のことも心配でしたから。翌週どうなるか分からない状態で、連載を書き続けました。

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【プロフィル】太田知子

 おおた・ともこ 昭和29年生まれ。小学校教諭、タウン紙記者などを経て平成3年、36歳で地域紙の西多摩新聞社に入社。13年から同紙編集長。19年4月に退社してフリーに。編集長在任中に同紙で連載した自身の介護日記に加筆し、7月『老親介護は突然やってきた!』(ユック舎)を出版した。HPはhttp://tomoko−ota.com/

(2008/03/13)