産経新聞社

ゆうゆうLife

高瀬登志子さん(上)


 □国際アビリンッピクで金メダル

 ■「心臓に異常」突然の宣告、健康のありがたさを実感

 静岡県で昨年秋、開かれた第7回国際障害者技能競技大会(国際アビリンピック)の洋裁・婦人服応用部門で金メダルを獲得した茨城県茨城町の高瀬登志子さん(56)はアパレル大手「イトキン」で働く、縫製歴20年以上の“カリスマ社員”。14年前、心臓に異常が見つかり、ペースメーカーの植え込み手術を受けました。突然の病気は健康や障害について考えるきっかけになったと振り返ります。(横内孝)

 会社でミシンを踏んでたんです。そしたら、胸が苦しくなり、背中も痛くなってきて。その日はなんとか過ごしました。翌日、近くの病院でみてもらうと、「心臓に異常がある」と言われ、専門病院を紹介されました。

 そのとき、すごく落ち込んだんです。「心臓に異常がある」って言われたことより、病院に来てくれた主人が小さなため息をついたんです。それが聞こえちゃって。「なんで、そんな病気になっちゃったのか」とでも思ったのかな、って…。後から考えれば、そんなこと、全然思ってなかったんでしょうけどね。

 主人は翌日、専門病院に付き添ってくれました。検査を受け、「洞結節不全症候群」と診断されました。この先どうなるのかなあ、と思ってたら、先生から「機械(ペースメーカー)を入れれば、普通に生活できるし、スポーツなんかもやってる人がいるから」と言われて。体に機械を入れることには、抵抗がありました。でも、主人の「手術をすれば大丈夫だから」という言葉に救われましたね。

                  ◇

 病気の原因はよく分からないんですが、脈が飛んじゃうようなんです。当時は40代前半。なんで心臓なの?って思いましたね。病気とは無縁だったし、私は絶対、病気にはならないと思っていたので。

 思い起こせば、予兆はありました。胸がしめつけられる感じがあり、家事がおっくうになり、時間がかかるようになったんです。

 手術は局所麻酔でした。左胸の鎖骨の下、2〜3センチの皮下にポケットを作り、たまごっちを平べったくしたような機械を植え込むんです。手術前に「痛くなったら教えてください」と言われたので、途中で「痛いです」って言ったのに、「ちょっと我慢してください」って。結局、2時間半ぐらいで終わりました。

 入院は15日間。機械は200万円とか聞いていたけれど、保険がきいて、費用は10万円もかからなかったと思います。退院後、1カ月間は仕事を休み、家で安静にしていました。

 ペースメーカーを植え込んだところは、今も触ると違和感があります。機械が入っているので、衝撃を与えないように気を使っています。重いものは持てないですね。「携帯電話はペースメーカーを入れている人には危険」と聞いていたので、持っていませんでしたが、先生に聞いたら、「携帯電話は右手で持ち、ペースメーカーから30センチぐらい離して使えば、大丈夫」といわれ、3年ほど前から使っています。でも、磁石はだめ。近づけると機械が誤作動を起こす恐れがあるんです。

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 以前とまったく同じというわけにはいきません。それでも、ある程度、普通の生活はできる。今は半年に1度、ペースメーカーの状態を調べに病院に行っています。正常に動いているか、電池はあと、どのくらい持つのか。4年ほど前、ちょっと調子が悪くなって、機械を取り換える手術を受けました。この機械は、心臓が正常に動かないと、指示を出す。それがリードと呼ぶ線を通じて心臓に伝えられ、心臓が正常なリズムを刻むんです。ほんとうによくできていると思います。

 4人の娘と8人の孫がいますが、みんな私の体を気遣って声をかけてくれたり、手伝ってくれたり。重いものが持てないので、高校生や中学生の孫もよく助けてくれます。

 自分は健康だ、と思っていても、いつ何時、病気になるか、障害を負うか、分かりません。心臓を患って健康のありがたさが身にしみました。こういう病気で内部障害者になり、世の中にはいろいろな障害をもっている人がいると知りました。そして、それにくじけることなく生きている。アビリンピック出場はそんな発見の場にもなりました。

(2008/04/10)