産経新聞社

ゆうゆうLife

作家・栗本薫さん(55)(下)


 ■執筆量減も話の展開速く モト取ろうと闘病記完成

 膵臓(すいぞう)がんの手術を受け、今も闘病生活を続ける作家の栗本薫さん(55)。もともと多作で知られる栗本さんですが、入院後も計5冊の本を書き上げ、多作ぶりは健在のようです。病気になって、「生活で無駄な部分をそぎ落とすようになった」という心境の変化は執筆活動にも反映。「量は減っても、物語の展開は速くなった」と自己分析しています。(佐久間修志)

 手術は成功して、悪いところは一応そのときは取れました。胃と小腸が直接つながるなど、内臓の編成はかなり変な状態ですが、食事もまあまま大丈夫。あとは抗がん剤の治療が始まったとき、白血球が減少する危険があるというので、5月の2日まで入院しましたが、まあまあ元気です。そんな訳でまたばりばり書いています。

 さすがに病気になる前と比べ、1日で書ける分量そのものは落ちました。以前は多いときなら1日に(四百字詰め原稿用紙に)100枚書いてしまうこともありました。乗ってくると止まらなくなってね。それが体調をくずす原因にもなっていたのです。今は体がストップをかけるので、一番多くて1日50枚くらいになりました。

 その代わりと言っては何ですが、ストーリー展開が速くなりましたね(笑)。

 今回の病気ではいろんな心境の変化があり、それが小説にも反映しました。今までは、もう少しもう少しと話の展開を引っ張る悪い傾向があったんですが、病気になってからは前より少ない枚数で話が進んでいる気がしますね。

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 分量は減っていると言っても、ずいぶん書いています。12月に入院してから今まで、エッセーも含めて5冊書きました。「グイン」が3冊で推理小説ものが1冊。あとは、今回の病気のいきさつをつづった闘病記です。

 闘病記は手術が終わって数日後から、集中治療室のことを思いだしながらメモを取り始め、2週間後からは病室にパソコンを持ち込んで、ベッド上の机で書き始めました。その後何回かの入院でも、パソコンを持ち込んでいます。

 乳がんの時もそうでしたが、こんな経験をしたからには、「モトを取らずにおくべきか」というか、「絶対書いてやる」という気持ちになってしまう。闘病記はもう書き上げて、夏ごろに出版される予定です。

 抗がん剤の副作用があって、あまり書けずにぐったりしている日もあります。でも私はありがたいことに副作用が軽い方らしく、いい吐き気止めがあるのも手伝って、ずいぶん楽です。本当に医学の進歩はすごいなあと思います。膵臓がんの5年生存率自体、以前よりずいぶん上がったと聞いていますし。

 あと何年であれ、生きている限り小説は書いていきたいなと思っています。だから、生きているなら健康でありたいと。ただ長生きするだけというのには、あまり意味がないように、私には思えます。小説をベッドでタイプするしかできなくても、手と頭だけは動いてほしいなあと思います。

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 がんで入院したことは、現在120巻まで出版されている小説「グイン・サーガ」119巻のあとがきで書いたので、ファンからは大きな反響がありました。

 この作品は、以前は100巻で完結するということでしたが、すでにそれを大きく超えてしまい、私自身、どうなるか分からないような物語の展開になっています。そんな事情もあって、あとがきを見て、病状はもちろんですが、小説はどうなるのだろうと心配してくださる声も頂きました。

 千羽鶴や漢方薬も頂いたし、「グインが終わるまで死なないでくれ」とズバッと言ってこられる方もあるし(笑)。

 私自身は「グイン」のために生きているのかというと、そうではないし。100巻まで書くのに25年以上かかったので、もし200巻まで続くとしたら、あと25年生きないといけない。物語も主人公たちの二世の話になっていくかもしれないし、書くところまで書くしかない。こればかりはどうなるのか分かりませんね。

 ただ、ファンのみなさんからのお気持ちはしっかり受け取りました。早く先に進もうとは思っています。あとはレベルを落とすことがないように。切り捨てられるものは切り捨てていくことを覚えましたので、その意味では、今回の病気は小説にとっては、たぶんプラスだったんだろう、いやプラスに変えてゆきたいと思っています。

 来年は第1巻が刊行されて30周年。何種類かの記念出版が企画されています。それまでに何とか多少の健康を取り戻していられればと思います。

(2008/05/30)