産経新聞社

ゆうゆうLife

女優、五十嵐めぐみさん(53)(上)


 ■障害ある長男ばかり優先 兄弟関係の悪化が表面化

 女優の五十嵐めぐみさん(53)は18年前、長男、健太さん(24)の小学校入学に際し、健太さんに学習障害があると知りました。当初は目立たなかった障害でしたが、成長とともに、他の子との差が歴然としてきました。家庭では、兄の障害を受け入れられない弟、陽平さん(22)との壮絶な兄弟ゲンカが繰り返されます。夫は長男が4歳のときにがんで亡くなっており、実母と二人三脚の子育てでした。(文・永栄朋子)

 長男の健太が3歳のころ、発音できない音があると気付きました。「ママ」は上手に言えるのに、「パパ」はだめ。「パピプペポ」の音がうまく言えず、ろうそくの火もふき消せなかったんです。

 「なんか変じゃない?」と心配していたら、親戚(しんせき)が「のどの病気じゃない?」と。慌てて耳鼻咽喉(いんこう)科に連れて行ったら、口蓋垂(こうがいすい)(のどちんこ)がないといわれ、足の肉を移植する手術を受けました。心配しましたが「成長とともに良くなる」と言われ、見守っていました。

 言語障害があるということで、障害者枠で私立大学付属の幼稚園に入れました。先生も適切にフォローしてくださり、お友だちや2歳下の弟とも仲良く遊んで、穏やかな日々でした。

 ところが、系列の小学校入学前に、先生から「健太君は学習障害(LD)です」と指摘されたんです。自分の子が障害児だなんてショックで、信じられませんでした。

 確かに、ボタンがとめられないなど手先は不器用で、運動神経もよくなかった。でも、得手不得手はあるし、うちの子はそういうのが苦手なんだ、のどが治ったら、自然に追いつくだろうと、そう思っていたんです。

 LDは同じ失敗を何度も繰り返すなど、学習能力が低い障害です。それまで知りませんでしたが、新聞などには、たくさんの記事が出ていました。関係ないと、見落としていたんでしょうね。それでも、低学年の間は何もしませんでした。息子がLDという事実を受け入れられなかった、ということもあります。

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 でも、学年が進むと、そうは言っていられなくなりました。周りのお子さんは成長していくのに、健太はいつまでも幼いまま。好きな子とかに抱きついてしまうのですが、幼稚園のころは受け入れられても、大きくなると嫌がられますよね? でも、お友達に嫌がられていることも、分からない。だんだんクラスでも浮いてしまったんです。

 文化祭のお店屋さんでは、どのグループにも入れてもらえませんでした。「仲間外れにされているのかな?」と、心配でした。息子にもっと適した環境で教育を受けさせた方が伸びるんじゃないかと悩み、焦りもしました。

 学習障害の子は文章を組み立てて説明するのが苦手な子も多く、健太も何も言わないので、私には学校の様子がさっぱり分かりませんでした。ずっと、自分の子が障害児だとは、「恥ずかしい」「いやだ」と、なかなか言えませんでしたが、ある日、保護者会で勇気を出して、学習障害だとカミングアウトしました。「お子さんから、息子の話が出たら、何でもいいから教えてほしい」と頼んだんです。

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 小学校高学年になると、兄弟の関係も難しくなりました。同じ学校に通っていたのですが、兄は学校で超有名人。弟も「お前の兄ちゃんが抱きつく」と言われたり、嫌な思いもしたのでしょう。

 学習障害のある子は、自分勝手に振る舞っているように見えます。弟は兄のそうした振る舞いを障害としては受け止められなかったようです。

 何より、母親の私が「健太、健太」と、一生懸命だった。弟は活発で友達も多く、放っておいても大丈夫と、私にも甘えがあったんだと思います。授業参観も、まず健太を見に行くなど、何かと優先してしまった。息子たちが思春期を迎えるころには、家庭内はとんでもないことになってしまったんです。

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【プロフィル】五十嵐めぐみ

 いがらし・めぐみ 昭和29年生まれ。51年テレビ小説「さかなちゃん」のヒロイン役でデビュー。結婚を機に引退するが、長男4歳、次男2歳のときにカメラマンの夫をがんで亡くし、復帰した。著書に「ありのままで〜夫のガン死をこえLDの息子とともに」(教育史料出版会)。

(2008/06/26)