産経新聞社

ゆうゆうLife

女優、五十嵐めぐみさん(53)(下)


 ■障害克服し就職した長男 今が一番良い時期と実感

 女優の五十嵐めぐみさんは、学習障害の長男、健太さん(24)に一生懸命なあまり、次男、陽平さん(22)のさびしさに気付けず、息子たちは思春期に激しいけんかを繰り返したといいます。しかし、進学、就労で苦労した健太さんは昨年、無事に就職。陽平さんも仲間とコントユニットを組んでいます。先日は、陽平さんが脚本・演出した舞台に出演し、好評を博しました。五十嵐さんはこれまでの歳月を振り返り「こんな日が来るとは思わなかった」と話します。(文・永栄朋子)

 弟の陽平は思春期を迎えるころ、兄の健太をすごく嫌うようになって、兄がいるだけでも腹が立つという感じでした。やたらと乱闘騒ぎになるんです。

 弟は183センチもあるのに、兄は174センチで体も細い。健太が頭を打って脳震盪(しんとう)を起こしたり、扇風機が飛んで壁に穴が開いたり、いつかケガするんじゃないかと、気が気じゃありませんでした。

 当時はロケで留守にするときは、母に「何かあったら、男の人を呼んで。管理人さんでも警察でもいいから」と頼んでいました。

 私は自分なりに、子供たちには公平に接しているつもりでしたから、陽平には「どうして私の気持ちを分かってくれないの?」と。でも、陽平は事あるごとに「どうせオレは健太のついでなんだ」と口にしました。子供のころには、遠くへ連れて行ったりしましたが、今思えばそんなことより、たとえ30分でも、健太の時間、陽平の時間と、母親を独占できる時間を作ってあげればよかったと思います。

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 学習障害を持つ子とその親の悩みは、子供の年代によって違います。最初は「お友達とうまくやっていけるかしら」「勉強についていけるかしら」「先生は理解してくれるかしら」と心配するのですが、中学生になると進学で悩み、そのうち就労の壁にぶつかる。

 親の会に参加されていたお母さんたちの中には、将来の就労を考えて、最初から養護学校に通わせている方も。私は養護学校という選択肢があることを知らなかったこともありますが、気持ちのどこかで、このまま普通校を卒業させたいという思いが捨てられませんでした。

 健太の通っていた私学は、中学までは障害者枠があったものの、高校にはありませんでした。数学の計算はできても、文章題は苦手という健太が、高校に上がれるのかどうか。「無理なら次の手を打つので早めに教えてください」と先生にお願いしました。無事に高校に上がれたときはうれしかった。

 でも、高校を卒業すると今度は就職先がない。卒業後の行き場がなく、職業訓練校に入るため、障害者手帳を取りました。結局、民間の職業訓練校に2年。その後、区の障害者就労支援センターに、また2年通いました。ワードやエクセルなど、取れる限りの資格を取得して昨年、無事に就職が決まりました。

 就職しても、本人に就労意欲を持たせるのが難しかったですね。昨年は五月病にかかり、やたら「頭が痛い」「行きたくない」と、遅刻したり休んだり。今年の5月にもなるかな?と様子をうかがいましたが、職場の方に恵まれて。落ち着いて仕事に行ってくれるので、ひと安心です。

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 兄の就職が決まって、兄弟の関係も落ち着きました。今までは一緒になるとけんかになるので、ずっと時間差で食事をしていたのですが、先日、久しぶりに2人一緒に食卓についていたんです。2人とも大人になったんでしょうね。長男が仕事につき、私と次男は一緒に仕事ができ、今が一番いい時期です。

 障害児を抱えていると、どうしても母親はその子にかかりがち。私はロケで一カ月とか家を離れることもあって、その間は家のことを忘れられた。それがよかったかな、と思います。1人になれる時間があって、自分を取り戻せたというか。

 以前、ある人の講演で「障害児を持つ親は幸せです。一生そばにいられるんですから」と言われたけれど、素直に喜べなかった。でも、今はそれもいいな、幸せだなと思えるんです。子供たちと同じように、私も少しは成長できたのかな。

(2008/06/27)