年をとるのが楽しみという藤村俊二さん=東京都港区(撮影・瀧誠四郎)
■比べることを意識せず 医師と良いつきあいを
藤村さんはがんをきっかけに、がんを見つけてくれた医師とかかりつけ医のような関係を保ち、大動脈瘤(りゅう)などの危機を乗り越えてきたといいます。70歳以上の人口が2000万人を突破し、高齢者が増えていますが、藤村さんは「老いとうまくつきあうことが、健やかに生きる秘訣(ひけつ)」と言います。(文・北村理)
がんを見つけてくれた先生の医院へは今も毎年、仕事の合間をぬって、人間ドックに通っています。先生は内視鏡の専門家で、病気を治すことよりも、予防というか、見つけることに力を入れている人。
がん以降、お付き合いさせて頂いているうちに、先生も僕の体のことをますますよく知ってくれるようになっています。「検査は体に負担がかかりますから、今回は胃カメラはしなくていいでしょう」とか、通り一遍でなく、臨機応変に僕の体を診てくれています。
その検査のおかげで、がんの後も大動脈瘤とか、いろいろ分かり、大事に至らないうちに治療していただいて、元気にやってます。
50歳過ぎて、体のあちこちに手術の線が入り、山手線だとか、中央線だとか言っているのですが。職歴書ならぬ病歴書ができそうなほど体は痛んでます。まあ、でも、人間、生きていると、だんだん中古車になりますから。パーツがいろいろ壊れるものですよ。取り換えられるものは取り換えればいいし、修理するものは修理すればいいし。
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大動脈瘤が分かったときは、駄目になった動脈を人工血管に取り換えました。2週間ほど入院し、退院翌日、一日消防署長の仕事があったんです。
はしご車にのせられて、「放水」と、元気に号令をかけたんですけれど、さすがに手術の傷が痛みました。本当のことを言うと心配させるので、周りの人には「腰が痛くて」とごまかしました。仕事ですから、無用に心配させて、人の気持ちに負担をかけるのは嫌いなので。自分が必要とされる仕事があると、気も張りますし、病気も治そうと思います。
がんで入院する以前は、白髪を染めていたんです。しかし、入院中は染める機会がなくて、隠しようがなくなった。そしたら白くなって、(作家の)ヘミングウェーみたいになっちゃった。それから、年齢を受け入れて、もう白髪のままいこうと心に決めたんです。
僕は、人間は比べることを意識し始めると不幸が始まると思っているんです。若いころの自分、がんになった自分、それ以前の自分、同じ年代の人たち、とかね。
年をとるのはしようがない、がんになったのも、なっちゃったんだからしようがない。性格的にそう考える傾向はありますが、そもそも、起きてしまったことに後悔や反省をして、頭を悩まし過ぎても、先に進みませんからね。
比べることをやめたら、気持ちが楽になる。今、自分が一番したいことをしようと思えばよい。
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まあ、そうはいっても年相応に体調を考えて、お酒もたばこも控えるときは控えます。すぐ元に戻りますけど。
がんになった友人で、「食べたいものを食べたらいい、体力がつくから」と、焼き肉を食べに行き、お医者さまにしかられ、再入院した人がいました。
彼には、焼き肉を食べることが元気の目安だったのでしょう。何事もほどほどはありますが、気持ちが落ち込むよりは、治そうという気持ちになれれば、それも良いと思います。
今70歳を過ぎていますが、80歳のときには自分はどうなっているか、どう老いさらばえているか見てみたい。
そう思って、やりたいことをいつまでもやっていたい。そのためには、自分の体を知ってくれて、いつでも相談できるお医者さまと、良いおつきあいをしていきたいと思うのです。
(2008/09/26)