産経新聞社

ゆうゆうLife

歌手・川村カオリさん(37)(上)


 ■大事なのは生きること 左乳房のがん摘出決意

 「神様が降りてくる夜」「翼をください」などのヒットを飛ばした歌手の川村カオリさん(37)は4年前、乳がんで左乳房の全摘出手術を受けました。しかし先月、自身のブログで再発と転移を告白。闘いは今も続いています。女性の象徴である乳房を失うことに悩みながらも、前向きに治療に臨んできた川村さんに、闘病生活を振り返ってもらいました。(文 篠原那美)

 休日の昼下がり、自宅でゴロゴロしながら、映画を見ていたときでした。何げなく触っていた胸に、空豆くらいのしこりがあったんです。「え、何これ?」。そう思うと同時に、病院を探し始めていました。母を乳がんで亡くしてましたから、「もしかしたら、私も…」と、胸騒ぎがしたんです。

 駆け込んだ病院で「しこりがあるから、早く検査をしてください」と訴えましたが、1カ月先まで予約がいっぱいだといわれて。医師は「1カ月で大きくなるわけじゃないし、大丈夫」というので、何もせず帰宅しました。

 だけど、心のどこかで引っかかっていたんですね。翌朝、娘を保育室へ送った後、特別な理由はないのに、家とは反対方向に車を走らせていたんです。そして偶然、大きな病院の前を通りかかった。何かに導かれたのかな。1カ月先まで待てないと、その病院で診てもらったんです。

 触診を終えた医師は「五分五分だ」と言い、すぐに精密検査をしました。良性であることを祈りましたが、1週間後に出た結果は悪性でした。

 病巣を部分切除して組織を調べてもらうと、非常に質(たち)の悪いがんで、グレード3の診断。乳房全体をむしばんでいる状態でした。「胸を開けた瞬間、クラッときたよ」。医師はそう説明し、「全摘出手術をしなきゃいけない」。そう告げました。

                 ◇ ◇ ◇

 でも、そう聞いて素直に「はい、そうですか」とは言えませんよね。ちょっと待ってくださいよ、ほかに方法はないんですか? 娘はまだ3歳前だし、子供はもう1人、2人産むつもりだし、まだ33歳という若さなのに、胸を失うなんて、女性として、どうなのよ?って。とても受け入れられなかったし、即決もできなかった。

 それから、本を読みあさり、インターネットで情報を集め、乳がん経験者やその家族、医療関係者など、知り合いという知り合いに会って話を聞きました。

 でも、乳がんは日本人女性の20人に1人がなるといわれる病気。多いだけに経験も見解も十人十色なんです。情報の多さに、どうしたらいいのか分からなくなっちゃって…。

 さんざん悩んだ末、主治医に聞いたんです。「自分の奥さんなら、なんて言いますか?」と。医師はこう言いました。「誰だろうと、変わらない。全摘なら全摘。大事なことは生きることだ」と。

 別の医師はこう言いました。「決めるのは君自身。だけど、万が一再発したとき、後悔しない? なんであのとき、切らなかったんだろうって、自分を責めるタイプでしょう」って。

 それを聞いて、きっとそうだな。絶対、悔やむだろうって思えたんです。元の生活に戻れるなら、胸一個くらい、まあ、いっか。うじうじしていたのが、うそのように、ポジティブな気持ちで手術に立ち向かえました。

                 ◇ ◇ ◇

 経験からいえるのは、病院選びも治療方針も、疑問や不安を抱えてやり過ごさないこと。私の場合、最初の病院に任せていたら、少なくとも1カ月は発見が遅れていたけれど、たまたま通りかかった病院で出会った先生はすぐに検査を手配してくれました。同じ症状なのに、病院や医師によって、こんなに対応が違うことを、知っておくことは大事ですね。

 そして、選択権は、医師ではなく自分にあるということ。分からないことがあれば、分かるまで聞く。納得して前に進む。どんな治療でも、その心構えが、大事なステップになると思います。先生に意見するのは気まずい。でも、生きていくのは誰なのか、考えてほしい。自分の体の管理人は自分しかいないのだから。

                   ◇

【プロフィル】川村カオリ

 かわむら・かおり 昭和63年に歌手デビュー。女優、モデル、DJとして活躍。平成11年にギタリストのモトアキ氏と結婚、13年に長女を出産。16年に乳がんで左乳房の全摘出手術を受ける。19年に離婚。20年10月1日、自身のブログ(http://ameblo.jp/kawamurakaori/)で再発・転移を発表した。

(2008/11/06)