産経新聞社

ゆうゆうLife

俳優、江守徹さん(64)(上)


 ■3度目の大病で禁酒 「人生、あなどってた」

 俳優の江守徹さん(64)は平成19年2月に脳梗塞(こうそく)になりました。3度目の脳血管疾患。酒豪で知られる江守さんは2度の脳出血後、医師に止められても、お酒がやめられなかったといいます。やっと禁酒した江守さんは今、率直に「健康に対してふまじめだった」と、語ります。(文 竹中文)

 平成19年に脳梗塞になりました。実はその前に2回も脳出血を経験したので、脳の病気は3度目です。最初は平成17年。ナレーションの本番直前なのに、ろれつが回らなかった。びっくりしましたよ。酔っぱらって、口調がおかしくなるときは、気をつけようと思えば、直りますよね。だけど、自分でコントロールできない。だから、異常だと。

 収録を延期し、翌日、病院で脳出血だと判明したのです。出血場所が脳幹だったのに、後遺症もなく治ったのは奇跡だと言われました。

 それなのに、その後も止められていたお酒をずいぶん飲んで…。アルコールは血圧を上げたり、血液を固まりにくくする作用があるので、脳出血の患者は飲まない方がいいといわれているんです。でも、多いときは一升ぐらい飲んでましたから。自分でも、バカだなあと思います。

 翌年、再び脳出血。舞台げいこの日でしたが、自宅で意識を失ったんです。気づいたら病院のベッドでした。「なんでこんなところにいるんだ」という感じで。

 3回目の異変はその翌年。文学座の会合の後で、「寒いな」と思ったんです。暖房が効いているのか、いないのか、よく分からない感じで。

 晩、家に帰って、今日は少し、口の回りが悪かったなと思ったんです。自分でね。そのとき、すぐ病院に行けば、よかったのかもしれない。それが「一晩寝れば大丈夫」ぐらいに思っちゃったんだな。3回目なのに。でも、自分では口の回らない感じが脳出血のときほどじゃない気がしたんです。バカですよね、本当に。

 病院で今度は梗塞だと。入院中は「性懲りもないやつだな」と思いました。

               ■   ■

 直後は後遺症に気付きませんでしたが、退院後、体が全体的に以前と違う。どこか元気じゃないんですよ。歩くのに支障はないし、何かを取ったりもできる。でも、どことなく違う。話し方とか、字が下手とか。人から指摘されない微妙な違いです。それに自分だけ気付くのは嫌なもので…。脳梗塞の経験者は多かれ少なかれ、もどかしく感じているのではないでしょうか。

 3度目を経験するまで、禁酒ができませんでした。若いころは酔っぱらうと、家に帰るのを嫌がり、さんざんごねて周囲を困らせるなんてこともありました。

 酔って周囲を困らせても、「それが持ち味」「天衣無縫」だなんて言われて甘やかされて。健康に対するまじめさが欠けていたのでしょう。いい気になっていたんです。人生に。本当にそう思う。あなどってた。それに気付いたことが一番です。反省しています。

 再発は怖いです。だから、酒をやめたんです。好きなお酒をやめるのに、特に工夫したわけではない。恐ろしさだけ。命と引き換えだと思うからね。飲みたいですよ。そう思いますよ。もちろん。

 打ち上げの席でも、お酒は出ます。前はそういうときに飲んだんです。今は打ち上げでも飲みません。飲みたいけど、我慢して飲みません。

 脳梗塞に限れば、適度の飲酒は予防的に働くともいわれますが、脳出血を考えると、飲酒は控えた方がいい。

 今は約2カ月に1度、検査を受けています。再発しないとは言い切れない。異常を感じたら本当に、すぐに病院に行った方がいいですよ。ぼくも、次は早く病院に行こうと思っています。

                   ◇

【プロフィル】江守徹

 えもり・とおる 本名、加藤徹夫。俳優、演出家。昭和19年1月、東京生まれ。37年、都立北園高校卒業後、文学座研究所に入所、41年に座員。紀伊国屋演劇賞個人賞や松尾芸能賞大賞など受賞。今年3月2〜11日、紀伊国屋サザンシアターで文学座公演「グレンギャリー・グレン ロス」の演出を手がける。

(2009/01/08)