産経新聞社

ゆうゆうLife

俳優、柳浩太郎さん(23)(下)

降板したミュージカルの続編に舞台復帰し、会場から喝采を浴びた柳浩太郎さん=平成17年12月((C)許斐剛/集英社・NAS・テニスの王子様プロジェクト、(C)許斐剛/集英社・マーベラスエンターテイメント・ネルケプランニング)


 ■人任せにしないリハビリ 過去の自分は目指さない

 交通事故で重い後遺症を負った俳優集団「D−BOYS」の柳浩太郎さん(23)は、ファンや仲間の励ましを受けてリハビリを続け、事故から約1年後に舞台復帰します。後遺症は今も残りますが、「昔の自分に戻ろうとは思わない。今後もこの自分ができることを追求したい」と前向きです。(佐久間修志)

 共演者からのビデオレターやファンレターを見てからは、リハビリにも力が入りました。「なるべくいい状態で戻るんだ」って、リハビリのない時間も、病院を1階から4階まで往復したり。顔色が悪くなるほどやりましたね。

 数カ月して退院しましたが、リハビリはずっと続けないといけないので、通院のほか、自宅近くのジムに事情を話して、リハビリを担当してもらいました。積極的でしたね。気持ち的にもだいぶ余裕が出てきたんだと思います。

 リハビリは「自分のやりたいことをやる」。これですね。どんなリハビリをするかは、自分のしたいことで変わると思います。自分の場合は舞台に立ちたいから、舞台のけいこができるようにと。併せて、食べることと、しゃべること、感情のコントロールもできるようにって。

 意外にキツイのが、食べること。食べるって大変。汗かいちゃいますから。でも、そこを人に任せたら、なかなか治らない。人に頼るところを全部自分でやれば、それはリハビリになるんだと思います。

 自分の性格は甘えん坊。その半面、自分のことは自分でやりたい自己中心的な部分もある。「ジコチュー(自己中)」ってマイナスと思われがちですが、リハビリには良い方へ働きましたね。

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 舞台復帰の話が出たのは、平成16年夏ごろ。事故前に主演で出るはずだったミュージカル「テニスの王子様」シリーズの続編に主演で。うれしかったですね。それから、リハビリの先生に頼んで、ラケットを振る練習なども取り入れて準備しました。

 でも、復帰はむちゃくちゃ不安だったですよ。記憶障害の影響で、せりふは覚えられない、次にどのシーンで出て、どんな動きをするのか、段取りも覚えられない。歌のキーも以前の高音域が出ず、曲を変えてもらったり…。

 自宅からけいこ場へ出ていくのもつらかった。休み休みでしたが、いよいよ間に合わなくなると、結局「来い」って言われて。でも、一人前として必要とされる感じが、うれしくもありました。

 迎えた同年12月。舞台では段取りがうまくいかず、迷惑をかけた部分もありましたが、仲間がつないでくれた。何より、不安だった舞台を楽しくできたことが収穫。幕が揚がった瞬間、こみあげてくるものがあって、「何、この感じ。やべー」って。今はまた、新たな舞台にもどんどん取り組んでいます。

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 舞台復帰して、「復活」って言われますが、ちょっと違う気が。今も後遺症は残っていて、「元に戻った」というイメージではないですから。

 ただ、事故前の、昔の自分に戻ろうとは思わない。今の状態から何かしたい。過去が自分のピークとは思わないので、そこが目標じゃなく、もっと高いところを、過去の自分とは違うルートで目指したいと思っています。

 今もリハビリは続けています。階段の上り下りも、リハビリを始めた当初と比べ、倍のスピードになりました。手すりにつかまれば電車にも乗れる。リハビリってすごいし、努力するって大事だなって。

 俳優として、自分は障害をセールスポイントにはしたくない。表舞台に立つ以上、いい意味で障害が覆い隠される演技をするのが目標です、舞台後、見ていた人に「えっ、あの人、障害持っているなんて気づかなかった」って言わせてみたいですね。

(2009/03/06)