産経新聞社

ゆうゆうLife

転勤命令、拒否できるの?

 【出題】 

 東京本社で働く女性従業員のMさんは、会社が大阪に営業所を開設するのに伴い、転勤を命じられました。Mさんは出張の多い夫、高校生の長男の3人家族です。転勤すると、単身赴任となり、家族に負担をかけるので断ろうと思っています。正しいことを言っているのは誰でしょうか。

 長嶋さん Mさんは女性だから転勤を拒否できるわ。

 星野さん 女性というだけで拒否はできないけど、高校生の長男の教育を理由に拒否することはできるわね。

 王さん 会社の命令には従わなくてはいけないと思うわ。

 【解説】 

 配転や転勤は会社の経営権として認められています。会社からすると、経営上必要があって転勤を命じているのに、理由もなく拒否されたら経営に支障が生じかねません。一方、従業員からすると、むやみに転勤を命令されたら生活が成り立たない、という言い分もあるでしょう。結論としては、基本的には転勤は拒否できません。しかし、一定の条件または、その従業員の置かれた状況によっては拒否できることになります。

 拒否できる例としては、勤務場所を限定する労働契約を結んだ場合があります。全国展開のチェーン店で、転勤は県内だけ、昇進も一定限度が設けられているなどがこれにあたります。この場合は従業員の同意がなければ変更できません。

 では、勤務場所を限定しない労働契約ではどうでしょうか。この場合、その転勤命令が会社の権利の乱用にあたるか否かがポイント。(1)業務上の必要性なく命じていないか(2)不当な動機・目的はないか(3)労働者に通常甘受すべき程度を超える著しい不利益はないか−が大まかな判断基準になります。

 ただし、最高裁の判例で「特段の事情がない場合には転勤命令は権利の乱用になるものではない」というのがあり、転勤命令を権利の乱用として拒否することは簡単ではありません。

 つまり、よほど理不尽な人事異動や、要介護状態の家族がいるなどの明確な理由がないと、転勤は拒否できないと考えたほうが良いでしょう。介護が必要な家族がいる場合も、当該従業員以外に介護できる家族はいないのか、施設入所など、代替手段の有無などで判断は変わります。

 【解答】 

 正解は王さんです。女性だからと転勤拒否はできないので長嶋さんは誤り。星野さんも転勤を拒否するほどの理由とは認められないでしょう。

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 この欄は社会保険の制度に詳しい専門家が執筆。http://www.psrn.jp/nenkin/で出題の補足説明をしています。監修は「社会保険博士」北村庄吾、今回の担当は特定社会保険労務士、南雲哲男(横浜)です。

(2008/07/01)