産経新聞社

ゆうゆうLife

過労死の認定を求めるには?

 【出題】

 40代の男性が自殺しました。妻は仕事で忙し過ぎたことが原因とし、労災の認定と損害賠償を求め、会社を訴えるつもりです。正しいのは誰の言葉でしょう?

 百合さん 過労による自殺が労災として認められたことはないみたいね。

 向日葵(ひまわり)さん 過労死が労災と認められるには、月100時間以上、残業したことが必ず、タイムカードに残されていないとダメみたいね。

 桔梗(ききょう)さん 以前、過労死の損害賠償を裁判で争っていた企業が、1億円以上の賠償をしていた気がするわ。

 【解説】

 たとえば、月100時間ほど残業していた人が自殺した場合、家族ができることのひとつは「これは過労死による自殺である」と、労働基準監督署に労災の認定を求めることです。もうひとつは「健康配慮義務違反である」と、会社相手に損害賠償を求める裁判を起こすことです。

 以前は鬱病(うつびょう)や自殺に労災が認められることは多くありませんでしたが、平成11年9月に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が出されてから、増えています。

 過労死が労災と認定されるには、残業の程度が問われます。一つの目安は、残業が月100時間以上かどうかです。睡眠が1日5時間未満だと、血管障害が増加するという医学的な調査から導き出された数値です。ただし「月100時間」はあくまで目安。今年5月には、月の残業が30時間程度だった会社員のくも膜下出血による死亡に労災を認める判決が下りました。

 また、3月に労災が認定された会社員はタイムカードなどではなく、「妻の日記」によって、月100時間以上の残業が認められました。

 会社を相手取り、損害賠償を求めた裁判では、平成12年、東京高裁で成立した和解で会社側が1億6800万円を支払ったケースがあります。そのほかにも1億円を超す損害賠償は数件あります。

 【解答】

 正解は桔梗さんです。最近は過労死や鬱病を労災と認めるケースは増えてきていますので、百合さんは間違い。また、「月100時間を超える残業」は、過労死認定の絶対条件ではありませんし、タイムカードではなく、日記が証拠とされたケースもありますので、向日葵さんも間違いです。

                ◇

 この欄は社会保険の制度に詳しい専門家が執筆。http://www.psrn.jp/nenkin/で出題の補足説明をしています。監修は「社会保険博士」北村庄吾、今回の担当は社会保険労務士、遊部香(千葉)です。

(2008/07/15)