【出題】
耕太郎さんは仕事中に脚立から落ちて骨折してしまいました。でも、会社はどうやら労災保険の加入手続をしていないようです。困った耕太郎さんは友人に相談しました。正しいことを言っているのは誰でしょうか。
耕太郎さん 会社が労災に加入していないなら健康保険を使うしかないよな。
杏さん 労災は強制加入保険だから、耕太郎さんは保護されるよ。
峰子さん 民間保険と一緒で、事故が起きてから会社が労災に加入しても耕太郎さんは保護されないよ。
【解説】
労働者の仕事中・通勤途上で起きた事故は労災保険で保護されます。原則、労働者を一人でも雇っている会社は、加入する・しないといった選択ができない強制加入の公的保険です。では、耕太郎さんのように会社が労災保険の加入手続をしていない場合は、どうなるのでしょうか。
労働者を一人でも雇用した会社は、所在地を管轄する労働基準監督署へ「保険関係成立届」を届け出る必要があります。労災保険料の負担を嫌い、加入手続の届け出を怠る会社が見受けられますが、法律上、労働者を雇ったその日から労災保険に加入したものと判断され、会社は適用事業所になります。
なお、ここでいう「労働者」は正社員に限りません。アルバイトやパートタイム労働者でも、会社に雇用され、給与をもらっていれば「労働者」に該当し、労災の適用を受けられます。
万一、手続きをしていない期間中に事故が起きてしまった場合でも、労働基準監督署へ請求し、労災と認定されれば、労働者は保険給付を受けられます。
この場合、会社には都道府県労働局から、未加入期間中に納付すべきだった労災保険料(最大2年間までさかのぼって徴収)と追徴金が請求されます。さらに、一定事由に該当すると、会社側は、国が労働者に給付した100%あるいは40%相当額を都道府県労働局から請求されます。労災に未加入の経営者は、常にこのリスクと隣り合わせにあります。知らないでは済まされません。
【解答】
正解は杏さんです。仕事中や通勤でのケガには健康保険は使えませんので、耕太郎さんは間違いです。健康保険を使用した場合、原則として健康保険組合や全国健康保険協会などから後日、保険給付額の返還請求を受けるので注意しましょう。また、会社が加入手続を怠り、労災に加入していなくても、被災した労働者は保護されるので峰子さんも間違っています。
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この欄は社会保険の制度に詳しい専門家が執筆。http://www.psrn.jp/nenkin/で出題の補足説明をしています。監修は「社会保険博士」北村庄吾、今回の担当は社会保険労務士 佐藤正欣(まさよし)(静岡)です。
(2009/01/20)