年金と、雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を同時に受けることはできません。しかも、ハローワークに求職の申し込みをしただけで、年金がいったん止まってしまうことは、あまり知られていません。今回は年金と失業手当との関係。社会保険庁の中央年金相談室や社会保険事務所に寄せられた相談をモデルに、年金をきっちり受け取る方法をお届けします。
Aさん(63)は今年3月、勤務先メーカーの事業縮小で退職した。60歳を過ぎた後も会社に継続雇用され、給与は多少、落ちたものの、勤務形態はそれまで同様。だから、厚生年金保険料も給与から引かれていた。
本来なら、60歳で老齢厚生年金の報酬比例部分が、62歳で定額部分を含めた年金全額が支給される年齢。しかし、給与収入がある間は老齢厚生年金が減額調整されていたため、一部しか受け取っていなかった。
退職で一部支給停止になっていた年金の手続きや、60歳以降に納めた保険料はどうなるのか−。社会保険事務所に電話で相談したところ、60歳以降に納めた保険料分も反映された満額の年金が支給されること、そのために自分で手続きをする必要がないことが分かった。
長年お世話になった人たちに退職のあいさつに回っていると、ある後輩が「まだ働く気があるなら、ハローワークで求職の申し込みをして、再就職先を探したらどうですか。失業手当ももらえるんじゃないですか」と提案してくれた。
健康にも自信があり、「まだまだ働ける」と考えていたAさんは年金のことなど考えず、早速、ハローワークで求職の申し込みをした。
しかし、しばらくして会社に勤務していた当時の同僚とばったり会ったAさんは「失業手当を受けると、老齢厚生年金が止まってしまうよ」と聞かされて、びっくり。
そうはいっても、ハローワークで4週に1回行われる失業認定に行かなければ、失業手当も給付されないし、満額の老齢厚生年金が受けられるだろうと、社会保険庁からの年金の満額支給の通知を心待ちにしていた。
ところが、ある日、送られてきた封書を開けたところ、入っていたのは、期待していた支給通知ではなく、雇用保険を受給すると、年金の支給が停止されるため、所定の手続きが必要との通知。あわてて近くの社会保険事務所を訪ねた。
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「ハローワークに登録しただけなのに、厚生年金が出なくなった」などの問い合わせは、社会保険事務所に多い。特に、Aさんのように、失業手当も年金も、どちらも受け取れる年齢層、働き方の人には、よくある事例だ。
本来、老齢厚生年金と失業手当の両方を受けることはできない。そこまでは分かっていても、ハローワークに求職の申し込みをしただけで、失業手当を受ける意思があるとして、年金がいったん停止になることは、あまり知られていない。
失業手当を受けるのか、それとも年金を受けるのかは事前によく確かめておいた方がよさそうだ。
最終的に失業手当を受けなかった場合、年金は後で支給される。しかし、失業手当を受けなかったことが確認されるまでに3カ月近くかかってしまうため、その間の老齢厚生年金の支給が遅れてしまうのが一般的。
「失業手当も受けていないし、求職の申し込みをしただけだから、大丈夫」と思い込んでいたAさんは、事前によく確認せずに申し込んだことを深く反省。3カ月後に年金が支給されるのを楽しみに待つことにした。
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【中央年金相談室からのアドバイス】
失業手当との関係で、年金が支給停止になる場合、停止になるのはハローワークに求職の申し込みをした翌月から、失業手当の受給期間が終了する月までです。
失業手当の支給は日単位ですが、年金は月単位です。このため、失業手当の支給終了時に、実際に支給された失業手当の日数を月に換算し、支給停止になった年金の月数の方が多い場合は、その月数分の年金を支給する事後精算が行われます。
60歳以降の継続雇用などで給与が下がった場合に支給される「高年齢雇用継続給付」を受ける場合も、老齢厚生年金の一部が支給停止されます。
電話による相談は、これから年金を受ける人が0570−05−1165。年金を受けている人は0570−07−1165です。(平日の午前8時半から午後5時15分)
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【社保庁のうえだ君】
老齢厚生年金を受けている65歳未満の人や、これから年金を請求する人は、ハローワークに求職の申し込みをするときは注意が必要です。年金が支給停止になりますので、事前によく相談してくださいね。
(2006/12/01)