得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

帰農 第二の人生の種まき(3)2地域居住



 ■希望の差埋める妙手

 完全移住による田舎暮らしではなく、都会の自宅との間を行き来する「2地域居住」の生活に関心が集まっています。背景には、夫が田舎での新生活にロマンを抱く一方、妻は都会の生活を続けたいと思うケースが多いことがありそう。それでも「農」の夢を実現できるよう、低価格住居も登場しています。(中川真)

 現役時代、農業関連の金融機関に勤めていた藤本将さん(63)はいま、川崎市麻生区の自宅以外に、静岡県掛川市北部の山里に2K(33平方メートル)の家を建て、ほぼ1週間ごとに往復して暮らしている。

 藤本さんは13年前、地元の篤農家、宮城正雄さん(91)の呼びかけに応じて、掛川で「学園花の村」の活動にかかわるようになった。多くの人が有機農業を始めることで、荒廃する山里を取り戻そうという取り組みだ。

 きっかけは、農業の実践を通して経済、道徳の融和を訴えた二宮尊徳の考え方に共感したこと。最初は通いだったが、3年前に荒れ果てていた茶畑や山林を再生し、「帰農」する人の居住スペース「倉馬の里」をつくり、自らも居を構えた。

 「掛川には新鮮な野菜がふんだんにありますから、自炊をしています。洗濯物は車で自宅に持って帰るんで、家内は嫌な顔をしていますが…」

 お茶を中心に、自家用の野菜づくりにも精を出す藤本さん。掛川に完全移住しなかったのは、妻の祥子さん(61)が反対したことと、藤本さんが58歳で退職後、別の会社で非常勤監査役などをしていたためだ。

                 ◆◇◆

 「最初に掛川に行きたいと話したとき、家内は泣きましたね。しばらく会話がない時期もありました。まあ、『退職後は旅行でもして、のんびりしたい』という人生設計だったんでしょう」

 妻の祥子さんも、「夫は10年計画の農業の収支表を見せて、説明してくれましたが、『私にはできない』と思いました。生活の基盤や友人を全部置いて、新しい生活をするには、年齢的にも難しいですしね」と振り返る。

 子供たちは独立し、藤本さん夫妻の生活の支えは、企業年金も含む年金収入だ。「有機茶」による実収入は「年間二十数万円」という。一方、掛川での生活には、往復のガソリン代、高速代なども含め、月10万円程度かかる。「現役時代のように飲み食い、冠婚葬祭の費用はそう多くかかりませんから。質素な暮らしですよ」と藤本さん。

 祥子さんも「ゴルフをしていると思えば…。生活費の心配はさほどありませんね。それに夫は夢がかなって、生き生きしていますし。家でブラブラしているよりいいですよ」と、今は2地域居住に理解を示す。「昔はお米を洗ったこともなかった人が、2年かけておみそ汁を作れるようになりました。少しずつですが、“妻離れ”が進んでいますね」と笑う。

 月のうち1週間は藤本さんと掛川に同行し、趣味のスケッチや絵手紙を楽しみながら、家事や「学園花の村」を訪れる人にも対応する。

 藤本さんは東京に戻ったときも、有機茶の販路拡大などの活動をしており、先日も仲間と一緒に、有機野菜を高齢者施設に納入する商談をまとめた。

                 ◆◇◆

 多くの人が、2地域居住に踏み切るには、田舎の住居を格安に確保する必要がある。そこで、宮城さんや藤本さんたちのグループは今夏、掛川と隣接する菊川市の牧ノ原台地にある宮城さんの所有地を再生し、「滞在型クラインガルテン」を開園するという。現地からは富士山や南アルプスが見渡せる。

 「クラインガルテン」はドイツ語で「市民農園」。約25平方メートルの敷地に1DKの「ラウベ」(移動ハウス)を設置。有機農業を志す人を対象に、菜園100坪、果樹園100坪と合わせて月4万円で貸す。ほぼ5年分にあたる250万円を先払いすることが条件だ。

 91歳という年齢を感じさせない宮城さんは「5年限定ではなく、賃料を払えば、6年目以降も住めます。住居は『建築物』の扱いでないので、固定資産税もかかりません。農家にとっては、農地を手放さない副業になるんです」と、普及に期待をかける。

 完全移住には狭すぎるが、2000ccクラスの新車と同程度の費用で、2地域居住による農村生活ができるわけだ。

 団塊世代への地方の視線は熱くなるばかり。福島や沖縄、新潟県上越市(4月から予定)などの帰農情報が集まる「ふるさと暮らし情報センター」(東京・東銀座)のような場所も増えている。本人の適性や努力はもちろんだが、自治体や農業関係者が現実に合ったサポートをできるかどうかが、「帰農」を一過性のブームに終わらせないカギといえそうだ。=おわり

(2007/01/25)

 
 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.