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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(4)



 ■異状死の増加…医療

 ■負担増で診療抑制?

 高齢者の孤独死がじわじわと増え、止まる気配がありません。背景には、高齢者の医療費負担が増え、診療を手控えていることがありそうです。社会保障費を支える現役の負担が限界とされるなか、世代を超えた「支え合い」はどうあるべきか。抜本的な取り組みが求められます。(北村理)

 阪神大震災から3年後の平成10年12月。復興への道をたどる神戸市で、光の祭典ルミナリエの入場者が初めて500万人を超えるにぎわいとなった。

 その喧噪(けんそう)に紛れるように、22日夕方、同市中央区の仮設住宅で無職の1人暮らしの男性(75)が浴槽で死んでいるのが見つかった。

 男性は高血圧を患い、約半年前にいったん入院したが、その後は通院していたという。

 この男性のように、神戸市内で監察医の検視対象となった、孤独死など異状死の総数は10年に、1106件。前年比209件の増加は昭和21年からの統計上、最高の伸び。仮設住宅での孤独死は3年間で計200人を超えた。

 異状死の増加は、神戸市にとどまらない。大阪市では前年比438件増の3558件。東京都では前年比930件も増加、9982件となり、いずれも過去最高レベルの伸びとなった。

 兵庫県の監察医として、当時、多くの異状死を検視した横浜市大医学部の西村明儒(あきよし)助教授は「解剖すると、循環器系の慢性疾患を患い、薬でようやく生きていたという形跡があるケースが目立った。震災直後の状況と同じだなと思った」と振り返る。

 震災直後の神戸市では、医療現場の混乱から、病院に通えなくなって急死する高齢者が相次いだ。それと同じ事情が、10年以降の孤独死など、異状死増加の背景にあるのではないか、というわけだ。

                 ◆◇◆

 実は、高齢者の医療費負担は平成9〜10年にかけて、外来で平均2〜3倍に増えている。診療報酬の改定で長期入院も抑制され、高齢者には、医療サービスへの敷居が高くなっていた。

 当時の厚生省はこのころ、70歳以上の医療費が平成37年に国民医療費の50%を占めるなどとする予測を示し、高齢者負担の引き上げを行った。この結果、国民医療費は推計で一時、昭和36年の皆保険導入以降、初のマイナス成長となり、同省は「マイナス成長に転じた背景には、負担が増えた(高齢者ら)患者の受診抑制がある」との分析も示した。

 一方で、高齢者の病院からの「追い出し」「(病院間の)たらい回し」などの問題が生じ、全国で電話相談が設置された。

 大阪府監察医事務所長の的場梁次・大阪大医学部教授は「高齢化、核家族化が急速に進む中で、高齢者医療の環境が変化し、異状死を全国で増加させるひとつの要因となったことは否定できない。十分な医療サービスを受けずに亡くなっている高齢者がいるのは確かだ」と指摘する。

                 ◆◇◆

 東京都内では17年に異状死は1万1974件。うち、65歳以上の高齢者は前年比で795件増加し、全体の58・1%に。さらに、孤独死は前年比で320件増え、高齢者の異状死の36%にのぼり、歯止めがかかる様子がない。「こうした状況になりうることは、平成9年から、監察医の間では懸念されていた」と西村助教授は打ち明ける。

 東京都監察医務院は9年度以降18年度まで、報告書で一貫して、高齢者の孤独死急増に警鐘を鳴らしている。

 ところが、厚生労働省はこの間、高齢者に負担増を求め続けた。昨年の医療制度改革では、70〜74歳の負担を1割から2割(現役なみ所得者は3割)に引き上げた。療養病床では、70歳以上の長期入院患者の食費など、利用料負担が増え、病床の削減も決まった。

 高齢者の孤独死について、厚労省はようやく来年度から、「(社会からの)孤立死」と位置づけ、地域の支え合いを軸とした防止対策に乗り出す。「高齢者の孤独死が、現在の高齢者医療や介護の制度がうまく利用されていないのが原因であれば、是正すべき問題だ」(老健局計画課)からだ。

 しかも、高齢者の総数は増える。東京都の推計では8年後に、都内で75歳以上の高齢者が150万人となり、1人暮らしは3割の42万人に達する。雇用環境が悪化すれば、低所得層が増える可能性もある。現在でも、年間所得300万円以下の高齢者世帯は62・4%。所得のすべてを公的年金に頼る世帯は、年金受給世帯の64・2%にのぼる。

 厚労省も「想像を絶する事態が起きるかもしれない。何らかの抑止策を早急に考えたい」との懸念を示す。

 法医学者として、高齢者の死を見てきた西村助教授は「高齢者の命はもろい。放置すれば容易に死につながる。財政的なバランスは取るとしても、命の問題として高齢者医療の質を落とすべきではない。そのためには、高齢者の居場所づくりも含めた、地域の支え合いの仕組みをつくることが必要だろう」と強調する。

(2007/02/08)

 

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