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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(6)

 □社会起業家…雇用

 ■安全網通じ自立促す

 前回は日払いで泊まれる「レストボックス」を拠点に、日雇いの仕事で食いつなぐフリーターを紹介しました。実は、その経営者も、元は半ばホームレス。生活保護寸前の人に社会保障は届かず、フリーターやホームレス出身の起業家が「ソーシャル・ベンチャー(社会起業家)」を合言葉に、貧困層のニーズをくみ取り、最底辺の生活を支えています。(柳原一哉)

 「同じにおいがする」

 JR山手線の車内の座席で、大きな荷物を足下に置いて眠りこけている若い男性の姿があった。

 エム・クルー(東京都豊島区)の社長、前橋靖さん(38)はある種のにおいをかぎとる。男性はおそらく定住先を持たないフリーター。冷暖房完備の電車で座いすを寝床代わりに、睡眠をとっているのに違いなかった。

 確信を持つのは、かつて自らも、住所不定のフリーターだったからだ。寝床がなく、同じように山手線で揺られた。そこしか居場所がなかった。

 前橋さんは今、「レストボックス」を経営する。雑居ビルの十数坪のフロアに2段ベッドを置いた、いわば「ドヤ」のようなスペースを、1日千数百円で提供する。

 「山手線はともかく、サウナやカプセルホテル、ネットカフェ…。日払いで泊まれる格安の宿泊所を求めるフリーターが目立って増えていますね」

 統計上の数字はないが、前橋さんはそれを独特の嗅覚(きゅうかく)で感じ取る。

 レストボックスはもともと、建設業の仕事を請け負う作業員のために、同社が用意した「寮」だ。だが、「仕事はしないが、寮は利用したい」というニーズに応じる形で、住まいのないフリーターに「住居」を提供した。それが、「レストボックス」になったのが、平成15年だ。

 「作業員にネットカフェで寝泊まりする人が多かったので、ピンときました」と前橋社長は振り返る。潜在ニーズを感じ、第2、第3のレストボックスを山手線各駅に近い雑居ビルに開設。現在は21カ所を経営する。

                  ■□■

 「レストボックスはもちろんビジネスだが、定住先のないフリーターに、帰る場所を提供するセーフティーネット(安全網)づくりでもある」

 前橋さんは事業を、採算のあう形で社会の課題を解決する「社会起業家」と位置づける。

 自身も建設現場の日雇いバイトをしながら、公園で寝る生活をしていた。「いつだれが転落してもおかしくない。それは紙一重。だから、安全網が必要だ」と話す。

 レストボックスの利用料は1日千数百円。日雇いバイトを1日すれば、日給でその日の寝床を確保できる。1カ月いれば、5万〜6万円。それが負担できるなら、アパートに住むこともできるはずだ。絶妙な料金体系に、自立を促す心がにじむ。

 2段ベッドが並ぶレストボックスでは、誰かしらの目覚まし時計が早朝に鳴り、1人、また1人と仕事へ出かけていく。

 「すると、怠けてアパートを追い出されて流れ着いた若者も、『自分も働かなきゃ』というモラルを取り戻していくんです。レストボックスのような共同生活の利点はそこにあるんです」

 働く意欲を取り戻し、再起までのベースキャンプにしてもらえれば−。

 「だれもが職を失い、フリーターになる可能性があるから、こうした安全網がいる。政府のフリーター対策は年間数百億円といわれるが、行政にこんな住対策はできないでしょう」

                  ■□■

 やはり、住居がなく、フリーターとして食いつないだ経験のあるオウケイウェイブ(東京都渋谷区)の兼元謙任(かねとう)社長(40)は初のQ&Aサイト「OKWave」を開設した。前橋さんと共通するのは、社会に貢献する社会起業家という自負だ。

 Q&Aサイトは、ネット上で人と人が助けあう仕組み。例えば、「会社都合の失業でなくても、失業保険が受けられる?」などの書き込みに、だれかが情報を提供する。テーマは硬軟、幅広い。

 兼元社長は仕事を失い、生活が苦しかったころに妻子に見放された。それをきっかけに上京し、公園で寝ながら、不定期の仕事をした。「ネット上には情報があふれているのに、私の欲しい情報はだれも教えてくれなかった」。大勢が善意で知識を出しあい、助け合うサイトの開設は、自身、つらかった時期に人と対話するぬくもりを求めたからだろう。

 兼元社長は「終身雇用は終わりつつある。ネット上の情報も使い、自分の身は自分で守って、荒波をくぐっていってほしい」と話す。

 ネットカフェや日払いの宿泊施設で暮らすフリーターの数は把握できない。日雇いで一定以上の収入があれば、生活保護の対象にもならず、社会保障の受け手にも、現実問題として支え手になるのも難しい。この層に、かつてホームレスだった起業家が側面支援する。

(2007/02/12)

 

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