□フリーター支援…雇用

　■取り残される３０代　

　正社員を目指すフリーターを支援するビジネスが広がってきました。就職戦線は今年、売り手一色で、企業に人手不足感が広まっていることが背景にあるようです。しかし、ビジネスの対象は、フリーターの中でも２０代の元大学生ら。若い層には明るさが見えますが、３０代フリーター層も同様に、不安定な雇用から抜け出せるのでしょうか。（柳原一哉）

　「失礼します。私は株式会社○○、森田ですっ」

　室内のあちこちで元気な若者らの声が響く。濃紺スーツの森田純夫さん（２６）＝仮名、東京都＝もお辞儀をしながら、名刺を両手で差し出す。あいさつの練習が何度も繰り返され、当初はぎこちなかった動きもスムーズになってきた。

　森田さんが参加しているのは、人材派遣、研修業のジェイック（東京都千代田区）が開く「営業カレッジ」。主に２０代のフリーターらを対象に、２週間の講義を実施。ビジネスマナーや営業の方法、履歴書の書き方などを学び、正社員としての就職を目指してもらう内容だ。

　プログラムには、飛び込みで本を売って歩く営業実践も。遅刻すれば即退学とのルールがあり、参加者は正社員就職を目指す若者ばかり。会場は名刺１枚もおろそかにしない熱気がこもっていた。

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　参加したフリーターの森田さんは、首都圏の私大に在籍した時代に就職活動をした。だが、うまくいかず気持ちも落ち込み、大学から足が遠のいた。結局、単位不足で留年。４年生になってからも就職活動を続けたが、就職はできなかった。

　「就職したいという気持ちが固まらず、『できればいいな』という程度だった」。自身の責任を強調するが、就職戦線は超氷河期で、就職口が限られていたのも事実だ。

　平成１６年３月に卒業、フリーターに。都内の実家に両親と住み、派遣業者から紹介された日給約１万円のバイトをこなした。「出費は、食費と国民年金保険料を払うだけ。両親に『定職に就かないと、追い出すぞ』といわれることもなかったし、その生活にどっぷり甘えていました」と森田さんは言う。

　しかし、一念発起して正社員を目指し、営業カレッジの門をたたいた。「兄が近く結婚する。相手の両親に『弟はフリーターです』と紹介させたくなかったから。やはり、低く見られるので」

　講義で自己ＰＲの方法などを学び、「同級生が大学３年のころ、このレベルに達して就職を決めていたのは、すごいと思った」。そう明かしながらも、「きっと就職を決めますよ。いつまでも甘えていられませんし」と話した。

　１７年６月のカレッジ開校以来、７２８人のうち、６０５人が中小企業に正社員として就職を果たした。

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　正社員になるサポートビジネスに、複数の民間企業が乗り出している。背景には、景気の緩やかな回復と、団塊世代の大量退職で求人需要が膨らんだことがある。

　リクルートの研究機関「ワークス研究所」によると、１８年に学生の企業就職希望者数は４３・７万人。全国の企業の求人総数は、その倍近い８２・５万人。氷河期から一転、バブル期の平成３年に次ぐ水準だ。関係者らは「学生の大手回帰と大手の大量採用で、中小企業で採用が逼迫（ひっぱく）する」と見る。

　リクルートは昨春、横浜市内に「就職Ｓｈｏｐ」を開いた。若者を採用したい中小企業と、地元で就職したい若者を引き合わせるセンターで、「フリーターも含め、能力のある若者を、採用意欲のある中小企業への就職に結びつけたい」（同社広報部）と意気込む。

　「フリーターを、偏見の目でみないでほしい」と、ジェイックの森本研事業部長も訴える。「就職氷河期には、就職先自体が減り、力のある学生も苦戦した。今は訓練などで自信を取り戻せば、フリーターも十分に就職できる。採用した企業には、『元フリーター』を長い目で見て、戦力になるよう育ててもらいたい」と話す。

　ただ、こうして正社員としての就職に成功していくのは、おおむね２５歳未満のフリーターだ。厚生労働省などの調査では、景気回復を背景にフリーターは１７年に約２０１万人と減少傾向だが、減っているのは２５歳未満で、それ以上の「年長フリーター」はここ数年、横ばいだ。

　森本部長は「企業がほしがるのは２０代で、『３０代は使いづらい』などの声が出る。同じフリーターでも２０代が就職を決め、年長フリーターの中でも３０代が就職できずに取り残されることが予測できる。この層に何を提供できるかが今後の課題でしょう」と話している。

(2007/02/14)