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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(8)

 □女子単身者…年金

 ■「70歳まで働いたのに」

 厚生労働省が試算した厚生年金の給付水準では、2026年度以降も「現役時代の50%以上」が確保できるとされています。しかし、これが当てはまるのは、「夫と専業主婦の妻」のモデル世帯。家族形態が多様化するなか、モデル世帯を前提にした試算には疑問の声が上がっています。(寺田理恵)

 離婚した女性の低年金化を防ぐため、今年4月から離婚時の年金分割制度が始まる。しかし、大阪府に住む永山登美子さん(73)=仮名=は離婚に反対する。

 「絶対に(離婚届に)判を押したらあかん」

 50歳代の知人が夫から離婚を迫られていると聞き、こう助言した。単身女性の年金暮らしがどれほど厳しいか、身をもって経験したからだ。

 「離婚してから30年も働き続けたのに、年金は93万円。企業年金を足しても112万円にしかなりません。年金では暮らせないので、70歳まで働いたんですよ」と永山さん。

 3年前まで現役だったせいか、きびきびと立ち働く姿が若々しい。古い小さな木造平屋の自宅は、狭いながらも手入れが行き届いている。

 「障害のある息子が働けるようになったから、やっと人並みの生活ができるようになりました。それなのに、専業主婦は保険料を払わなくても年金がもらえる。夫が亡くなったら遺族年金がもらえるなんて…」

                   ◇

 かつて専業主婦だった永山さんは31年前に42歳で離婚し、当時15歳の長男と11歳の二男を連れ、今の家を借りて引っ越した。夫から慰謝料や養育費は受けられず、母子3人の生活を支えるため、スーパーの販売員として午前10時〜午後5時のパート勤務を始めた。

 当時の時給は300円。とても生活できず、午後7時〜同10時もコンビニエンスストアでアルバイトをした。パートとバイトの合間の2時間に、慌ただしく一時帰宅して、息子たちの夕食の支度や入浴の世話を済ませた。

 休む間もない生活は続かず、半年後には市役所に相談し、生活保護を受けることに。そのとき勧められて、国民年金保険料の免除手続きもした。しかし、二男が義務教育を終えると、生活保護は打ち切られてしまった。

 困っていたとき、勤務先の人事担当者が「保険(厚生年金)に入ってへんねんな。入った方がええんやったら、手続きするで」と厚生年金加入を勧めてくれ、47歳で厚生年金に移ることができた。

 「その代わり、人の3倍は働きました。パートは長続きする人が少ないけど、私は生活がかかっているから頑張りました。売り上げ目標を達成し、婦人服売り場のチーフとして、バイヤーとの交渉も任された。病気にならなかったのが不思議なくらい」と、働きづめだったパート時代を振り返る。

 時給は最初は10円ずつ、やがて50〜60円ずつ上がったが、生活は楽にならない。二男はアルバイトで学費を稼いで高校を卒業した。

 長男は成績が良かったが、体に障害があった。大学の学費が払えそうになく、親子で「せめて受験だけでもしよう」と話し合った。いったん進学をあきらめかけたが、奨学金で大学を卒業できた。

 永山さん自身は働きぶりを評価され、63歳まで定年を延長した。

 60歳から厚生年金を受け取ったが、家賃7万円を払うと、ほとんど残らない。63歳で退職後も、勤務先から請われたこともあり、70歳まで系列のスーパーでアルバイトとして働き続けた。

                   ◇

 永山さんは専業主婦時代から任意で国民年金に加入していたので、加入期間が30年ある。満額支給の40年には不足だが、同世代の女性では長い方だ。

 年金額が少ない原因の一つは、収入が低かったから。時給は最後は900円まで上がったが、600〜700円の時期が長かった。国民年金保険料が免除されていた時期もあって、受給額が伸びない。

 一方、専業主婦の場合は、昭和61年の「第3号被保険者」制度の導入で年収130万円未満なら、保険料を納付しなくても、65歳から自分名義の基礎年金がもらえる。夫の死後には、夫の厚生年金の4分の3を遺族年金として受け取れる。

 永山さんは「遺族年金の人は税金がかからない。海外旅行に出かけて優雅に暮らしている人もいるのに、どうして…」と納得がいかなかった。

 長男は卒業後、障害を理由に何社もの採用を断られたが、専門知識を生かせる首都圏の企業に就職できた。永山さんは今、長男の扶養家族となって、健康保険組合に加入している。

 厚生労働省は今月6日、厚生年金の受給額が2026年度以降も現役時代の手取り収入の51・6%となる試算結果を示した。

 しかし同省が平成16年の年金改正時に示した2025年度の給付水準は、モデル世帯が現役時代の50・2%に対し、男子単身者36・0%、女子単身者44・7%と、非モデル世帯で低い。モデル世帯が高いのは、専業主婦の妻の年金が加わるからだ。単身者には、厳しい年金生活が待っていそうだ。

(2007/02/15)

 

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