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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(10)

 □あえぐ国保…医療

 ■しわ寄せ、中間所得層に

 「サラリーマンに比べて、保険料が高すぎる」。年金受給者や自営業者、パートなどの加入者が不満を感じる国民健康保険の“負担格差”は、どこから来ているのでしょうか。「保険料負担を増やしたくない」と勤務先の退社を踏みとどまった一家を通して、問題点を探ってみました。(中川真)

 「主人の昨年のボーナス、いくらだったと思いますか? 夏はゼロ、冬は10万円。担当物件の赤字を理由に、主人の部署だけ抑えられたんです」

 こう話すのは、東京近郊のA市に住む佐々木夕子さん(38)=仮名=だ。地元の建築会社で働く設計士の夫(33)と1歳の男の子の3人暮らしだ。

 会社に不満は募ったが、社会保険料などの支払いに追われた2年前の“悪夢”を「繰り返したくない」。夫は辞表を出すのは踏みとどまった。佐々木さんは当時、退職して不妊治療に専念。夫は個人経営の設計事務所に勤めていた。月収20万円。生活費には10万円程度しか回らず、夫は深夜もアルバイトに精を出していた。

 「後でわかったのですが、夫は5年前、給料の遅配をきっかけに消費者金融に手を出し、負債が6社、計300万円になっていたんです」

 公共料金や社会保険料の滞納が続き、佐々木さんは自分の貯金を納付に充てた。当時、夫婦2人世帯の国保料は年間約20万円。約33万円の国民年金保険料もあり、月10万円超の借金返済を続ける一家には、「大きな負担だった」と振り返る。

                   ◇

 その後、佐々木さんは妊娠。「子供のために」と、夫も建築会社に転職を果たし、昨年の年収は約420万円に増えた。子供も生まれ、3人家族になったが、組合健保になって、保険料の自己負担は年間18万円に下がった。

 組合健保は、会社が従業員と同額以上の保険料を負担する。組合健保で組織する健康保険組合連合会によると、全加入者の平均保険料は今年度、37万8725円。個々の負担は、平均負担比率が45%なので、17万426円になる。

 健保連は「会社負担も給料の一部」として、国保より保険料が“安い”という見方を否定する。だが、国保の財源は50%(約3兆7000億円)が公費だ。単純に比較できないが、財政力があり、会社の負担比率が高い健保なら、個人の負担感は国保よりもかなり低い。

 むしろ、大きな違いは加入者の構成にある。厚生労働省によると、加入者の平均年齢は平成17年3月末に、市町村国保が53・2歳なのに対し、政管健保が37・2歳、組合健保は33・9歳(いずれも扶養家族を含む)だった。

 国保は加入者の約4分の1が医療費の高い高齢者。所得捕捉が難しい自営業者、収入の少ないパートも多く、基盤は組合健保よりも弱い。

                   ◇

 仮に、佐々木さんの夫が会社を辞め、同じ年収でA市の国保に入ったとすると、年間の国保料は7万円高い25万円になる。同じ年収で引っ越しても、保険料は大きく違ってくる。

 大阪市なら、保険料は東京23区(特別区長会の試算から算出)の約2倍になり、名目年収の10%を超えてしまう。大阪市は1人あたりの医療費が高く、加入者も半数以上が住民税非課税の低所得世帯。国保加入者の構成が、高い負担につながっている。

 国保の保険料は料率のほか、定額負担部分(平等割、所得割など)と、所得比例部分(所得割)の組み合わせで決まる。しかし、その組み合わせや、定額負担分の額、所得割の料率は自治体によって異なる。

 東京23区では、所得比例部分の比率が、定額負担部分に比べて大きく、所得割の料率も低い。しかも、住民税に比例させるので、中所得世帯にシワ寄せがいきにくい。

 大阪市も昨年度まで、同じ方法で計算していたが、佐々木さんのような世帯でも、加入者の上位グループに入ってしまい、保険料が高くなる構図だった。

 そこで、今年度からは総所得を基に所得割を計算する方法に変えた。控除が限定され、所得割を課す対象が低所得世帯に広がった。さらに、定額部分の比率を高めた結果、年金受給世帯の負担は増え、現役世帯では単身の中所得層の負担は下がったものの、2人以上の世帯では負担減にならなかった。所得割の料率はA市の約2倍の12・6%だし、全国的には2万円台が多い平等割も、倍以上に及ぶためだ。

 大阪市の担当者は「加入者に低所得世帯が多いと、どうしても中所得世帯に過重がかかってしまう」と話す。

 統一保険料を続けてきた東京23区も、状況を楽観していない。特別区長会の16年度試算によると、統一保険料をやめた場合、各区が本来集めるべき保険料は、年収700万円世帯で24万7000円〜53万円(国保料の限度額)で、区によって最大30万円弱も開きが生じるという。

 保険料収入の不足する区は、都の財政調整で埋めてきたが、収入不足を少しでも縮めようと、23区は所得割を総所得で計算する方法への移行を検討している。総所得で計算すれば、保険料を広い層に課すことができるからだ。

 国保制度を維持するため、「多くの世帯に負担を広げざるを得ない」(ある自治体担当者)とはいえ、佐々木さんのような中間所得世帯の負担感は、一層高まることになる。

(2007/02/19)

 

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