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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(11)

国保料の滞納者は、医療機関にとっても悩ましい存在になっている(写真はイメージです)



 □国保 増える滞納…医療

 ■「資格証」めぐる攻防

 「国民皆保険」の前提が崩れつつあります。国民健康保険の保険料を滞納する人が増えて「収納率」が下がり、平成16年度に全国で過去最低の90・09%(17年度は90・15%)となりました。苦しい事情を抱える人だけでなく、「払いたくない」「健康保険は不要」という滞納者も少なくないようです。東京の下町で実情を取材しました。(中川真)

 チンチン電車が走り、昔ながらの商店街や町工場が多い東京都荒川区町屋。この町の医療を支える「竹内病院」では、診療代を支払わない患者に頭を抱えている。

 「未払いが増えて困っています。『保険証を忘れました。持ち合わせがないので今度払います』と言ったままになったケースもありました」

 竹内明輝院長は苦笑いする。この患者は肝障害を抱える50代の女性。数回の未払いを続け、姿を見せなくなった。風の便りでは、ほかの病院に移り、同じように未払いを続けているという。

 「診療代を20万円も踏み倒されたこともあったんですよ」(竹内院長)。国保の加入者かどうか、区役所に問い合わせても、個人情報保護を理由に回答が得られない。通常、保険証のない人からは数千円の「保証金」を預かるが、目の前で苦しんでいる患者に「持ち合わせがない」と診療を懇願されれば、「追い返すわけにはいかない」というのが実情だ。

                  ◆◇◆

 「国保よりも安上がりだ」と、窓口で全額(保険適用の場合の10割)を自費で支払う人も増えている。「彼らは特に、医療費に敏感です。再診料を節約しようと、『薬を3カ月分処方してくれ』とか、糖尿病の血液検査で『検査項目を血糖値だけにしてくれ』とか…」(竹内院長)

 国保の保険料は最高53万円(介護分は除く)。東京23区の場合、現役世代の給与所得者だと、年収800万円程度で上限に達する(特別区長会試算)。23区は特に保険料が安いので、ほかの地域ならもっと収入が低くても上限に達してしまう。

 荒川区の国保加入者の1人あたり医療費(65歳未満、保険給付+自己負担)は、23万2986円。このため、高所得の単身者や、大病に縁がない少人数の世帯では「全額自己負担の方が安上がり」という感覚に陥りがちだ。

 実際、国保料を払わずに、民間の入院保険でリスクをカバーしようとする人もいるという。しかし、こうした滞納者も、「大きな病気をすると、初めて保険料を払う気になる」(窓口担当者)という。

 多くの国保担当者は“ただ乗り”に憤りを隠さず、差し押さえなど強制的な徴収の対象者と考えている。

                  ◆◇◆

 滞納問題で常に論争になるのが、「払えるけれど、払いたくない」のか「払いたいけれど、払えない」のか−だ。

 こうした議論の象徴になっているのが、長期に保険料を滞納した人に対する「被保険者資格証明書」(資格証)だ。納付が滞っている人は、2年に1度、保険証が更新される際に、「1年証」「半年証」などの「短期証」に切り替えられ、それでも納付に応じない人に発行される。保険料を滞納しているが、「被保険者の資格はある」という位置づけで、医療機関の窓口で医療費の10割分を支払い、市町村の窓口で7割分が返納される。

 資格証に対する批判で最も多いのは、「(低所得などの)滞納世帯から医療を奪う」(全国保険医団体連合会)というものだ。こうした“弱者いじめ”論に対して、自治体の国保担当者は「ペナルティーではなく、滞納者と直接話し合う機会を増やすことが、最大の狙い」(荒川区)と説明する。

 督促状などを無視する滞納者も、「資格証になりますよ」といわれれば不安になる。それが分割払いなどの「納付相談」に結びつくという。荒川区では短期証から資格証に切り替える対象者を、最低2回は窓口に呼び、生活苦などの事情があるか確認している。

 やむを得ない事情があったり、入院や通院中の世帯には、荒川区は短期証を継続する考えだという。資格証は短期証発行後も1年以上の滞納を続けると発行する規定だが、実際には「窓口の処理能力」などの事情もあり、2年の猶予を設けている。

 東京都の各区や市町村は最近、滞納者から徴収できた保険料を、その年の分に優先して充てるようにしている。以前は時効を迎えないように、古い滞納分から処理していた。しかし、「さらに滞納が増えないように、直近の保険料を頑張って納めてもらうことを最優先した」(都の担当者)と、発想を変えたのだという。

 荒川区はこうした取り組みや、保険料のコンビニ納付の導入などで、17年度の収納率を85・73%に回復させた。前年度(83・84%)比では、全国一の伸びだ。

 しかし、滞納者のなかには、納付を求められることを恐れて、窓口から足が遠のく人も多い。昨年10月現在、資格証の発行数は1321世帯(加入全世帯の約2・6%)と、1年前より約350世帯も増えた。「払わない層」はより鮮明になっている。

(2007/02/20)

 

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