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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(12)

 □孤独死“予備軍”…高齢者

 ■見守る取り組み模索

 日本の高齢者は50年後には、40%に達するといわれています。一方、三世代同居率は10%と核家族化が進み、高齢の孤独死が増えています。国は今後、防止対策に乗り出す方針。阪神大震災で地域や家族を失い、孤立化する高齢者を支える神戸の取り組みに注目しています。(北村理)

 神戸市中央区の公営復興住宅にひとりで住む男性(75)は日ごろ、食事をパンなど、あまり調理の必要ないもので済ます。

 男性は、6年ほど前から視力が悪化し、今はかろうじて人の存在が判別できるほど。かつては旅行が趣味で、全国を友人らと見物して歩いたが、友人も相次いで亡くなった。最近は「人に迷惑をかけたくない」と、ほとんど閉じこもりの生活だ。

 男性の孤独な様子を知り、同住宅の「見守り推進員」が介護保険の利用を勧め、男性は2年前から週2回、買い物や通院介助のサービスを受けるようになった。

 大震災で長年にわたって築いてきた人間関係や家族をなくし、孤独死する高齢者は多い。このため、推進員らは男性のような“予備軍”に、注意を払っているのだ。

 男性は昭和25年ごろ、職を求めて、長崎から朝鮮戦争特需にわく神戸にやってきた。以来、ほぼ半世紀を日雇い労働で過ごした。しかし、阪神大震災で被災。仮設住宅を経て、抽選で復興住宅に入居した。

 身よりはなく、年金の受給資格もないため、現在は貯金を取り崩す生活。貯金があるから、生活保護は受けられず、毎月の生活費を7万円ほどに切りつめている。

 食費は約4万円、家賃や光熱費約1万5000円のほか、介護関連費、高血圧の治療薬や眼科の薬代や通院費に計1万円ほどかかる。

 男性は「切りつめるなら光熱費や衣料費だが、今は血圧は正常なので、薬もやめようかと思うときもある」という。

 復興住宅に、こうした生活レベルの独居高齢者は多いという。

                   ◇

 阪神大震災で住宅をなくした住民のための復興住宅は現在、約200カ所に約1万7000戸。

 震災後の仮設住宅で急増した孤独死は、復興住宅でも過去5年間、60〜70件と減っていない。しかも、65歳以上の高齢者世帯は40〜50%に達し、年々増加している。県や市は孤独死対策に本腰を入れ、国もその取り組みに注目をする。

 兵庫県や神戸市が「見守り推進員」として復興住宅に常駐させるのは、介護の経験者など。推進員は自治会や行政機関などと連携して、地域や家族などに代わって、高齢者を支える。

 高齢者のための交流会も開かれるが、「積極的に顔を出す人は3〜4割。ケアする側に女性が多いこともあって、男性の姿はほとんどない」(神戸市)のが悩みだ。

 戸建て住宅なら、それとなく外からも観察しやすいが、復興住宅のような高層住宅では、居住者を把握するのも難しい。そんな環境下での取り組みも、半世紀後、東京や大阪の大都市圏で増える高齢者の孤独死対策に重なる。

                   ◇

 「(復興住宅の)鉄の扉は心理的にも非常に重い」と打ち明けるのは、冒頭の復興住宅で見守り推進員を務める介護福祉士の中薗真澄さん(57)だ。

 中薗さんは2年前から週4日、ペアで各戸訪問を続けている。担当の復興住宅約600戸の高齢化率はほぼ50%、単身者は約150世帯にのぼる。

 中薗さんは「団地内に情報紙を配って、接触を図る。運良く玄関まで出てきてくれればよいが、不在や、反応がないことも多い。訪問販売を嫌って表札をかけない人もいる。自治会の活動が活発でないので、情報収集が難しい面もある」と、ぼやく。

 神戸市はこのほか、大阪ガスと提携し、ガス使用量で住民の動向を見守るシステムを導入した。1日のガスの使用量が、近くの介護施設にメールで届く仕組みだ。

 昨夏、ガス使用量が数日間ゼロだった家庭に気づいた推進員が、住宅を訪問すると、94歳の女性が夏バテで動けなくなっており、病院に搬送した例もあった。

 ただ、「監視されているようでいやだ」と断る高齢者もいたり、同じ復興住宅でも、高齢者用のシルバーハウジングには備えられているが、一般住宅にはなかったりと、態勢にバラツキもある。

 有料なのも難点で、冒頭の男性は「利用料が払えない」と設置を断ったという。

 ほかにも、配食、福祉電話、ゴミ収集などの多彩なメニューも用意されている。

 中薗さんは「高齢者自身が社会のなかで生きようとする意思を持つことが何より大事。われわれにできるのはその意思を引き出す機会を提供することだ」と強調する。

(2007/02/26)

 

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