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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(13)

 □生活支援…高齢者

 ■安心こそ生きる糧

 阪神大震災後の11年間で約1000人もの孤独死を出した兵庫県の被災地では、孤独死を減らす取り組みが続けられています。特に、高齢者向け住宅(シルバーハウジング)のSOSを、生活援助員が24時間態勢で受ける見守り制度は全国唯一の試み。課題もありますが、関係者らは「安心感こそ、高齢者の生きる糧になる」と、訴えます。(北村理)

 「高齢者の命の波は毎日、揺れている」というのは、看護師でNPO「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」(神戸市)理事長の黒田裕子さん。「いつでも、どこでも」の“コンビニ福祉”をモットーに、「高齢者には、いつも付き添っているという安心感が必要だ」と訴える。

 黒田さんは阪神大震災後、神戸市の仮設住宅の敷地にテントを張って泊まり込み、全員の家庭や健康状態を把握した。

 その結果、1060世帯1800人、高齢化率50%という最大級の仮設住宅で、孤独死は4年間で3人にとどまった。全仮設住宅(最高時4万6000世帯)の孤独死計235人と比べて、少なさが際だつ。

 重要なのは、全員の状態を把握するまでの道のりだ。「中には、話をするまで1年かかった人もいた」(黒田さん)。訪ねるたびに、沈黙する扉の中の様子に耳をそばだて、「いつでも来ます。呼んでください」と書いた手紙を投函(とうかん)した。

 体力も気力も衰えた高齢者は、待っていても出てこない。見守りは、福祉や医療の専門家でなくても、主婦の目で十分できるという。「換気扇や台所、トイレの使用状況を見れば、食事をしているか、便がちゃんと出ているか、掃除する体力があるか、話すときは手を取って脈をみる、それだけでも、健康状態が分かる」と黒田さん。

                  ◆◇◆

 芦屋市の南芦屋浜災害復興公営住宅では、生活援助員が近くの集会所に泊まり込むなどして、24時間態勢で高齢者の緊急通報を受け、必要なら出動もする。

 泊まりに対応できるよう、援助員は介護福祉士やヘルパーの有資格者など11人。対象は、同住宅約800戸のうち、230戸のシルバーハウジングと、援助依頼のあった一般住宅約50世帯だ。高齢者向け集合住宅での24時間見守りは、国内唯一のケースとして注目を浴びる。主任の介護福祉士、小林大洋さん(27)は「ふだんの生活支援が孤独死の防止につながる」という。

 日中の訪問回数は、昨年12月にのべ2343件、1日平均76件だ。ほかに相談が358件、一時家事援助は310件。緊急通報は誤報も含めて月に84件(夜勤帯58件)に上った。

 緊急対応の内容は、救急車の手配、徘徊(はいかい)の保護、夫婦間トラブルの仲裁、孤独死の要因となりがちな風呂からの引き上げなど。通常は、介護保険の手続き代行や食事、買い物、清掃補助といった身の回り支援も行う。「ほとんどお手伝いさん。介護保険のスキマを埋めている状態」(小林さん)というほど、仕事は多岐にわたる。

 平成10年に始まったが、「年々、住民の高齢化が進み、身体介護やターミナルケアが必要なケースも目立ってきた」という。

 事業は、芦屋市が国と県の支援を得て、地元の社会福祉法人に委託して行っている。援助員11人の給料を含む経費は年間約4000万円。シルバーハウジングの住民も所得によって月額1500〜4900円を負担することになっているが、払えるのは16%にすぎない。資金が底をつくと、一般のシルバーハウジング同様に、援助員3〜4人で週5日、昼間だけの見守りとなってしまうのが、痛いところだ。

                  ◆◇◆

 「住民は地域で見守る。住民が地域を守る」

 神戸市西区の井吹台地区は住民同士の見守りで孤独死を減らそうとしている。自治会の加入率は90%超。阪神大震災の2年前に街開きし、民生委員が中心になってゼロから自治会を育ててきたニュータウンだ。

 連合自治会長の坂本津留代さん(55)は「会費を年150円に抑え、活動の目的を明確化して参加しやすいようにした」。安全のために門灯の点灯を目指した際は、達成率を逐一、各戸に報告し、点灯していない家庭に訪問を繰り返して点灯率ほぼ100%にこぎつけた。

 「こうした地域活動の過程で各戸と接触することで、各家庭の事情が分かる」

 最近では、老老介護や障害者、乳幼児のいる世帯を支援するため、1時間500円で掃除や買い物、通院介助のサービスを始めた。「地域住民が、長続きできることをこまめにやることで安心感が高まり、閉じこもりを防げる」と坂本さん。

 「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」の黒田さんは「高齢者は人生の経験者。老いは誰もが通る道で、好き好んで閉じこもる人はいない。1人も無為に死なせないという気持ちが地域にあれば、孤独死は防げる」と訴えている。

(2007/02/27)

 

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