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崩れゆく支え合い−格差時代の社会保障(14)

 □生きがい…高齢者

 ■交流が衰えを防ぐ

 高齢者の孤独死を防ぐには、高齢者自身が生きがいをもつことや、それを通して友人、知人との関係を広げていくことが大切です。こうした関係が作れるよう、どう環境を整え、支援していくか−。コミュニティー再生など、多角的な取り組みが必要なようです。(北村理)

 大川知枝子さん(86)は昨年春、大きな決断をした。56年間、暮らした神戸市をあとにし、東京都江東区のマンションに住む長女の辻俊子さん(61)と同居することにしたのだ。

 知枝子さんも俊子さんも長年連れ添った夫を亡くし、ひとりだった。俊子さんは義母(83)が神戸市の特別養護老人ホームに寝たきりで、月1度、新幹線で遠距離介護に通う。

 「ほんとに、よう決めたと思うわ」と俊子さんがいうと、母親の知枝子さんは「あんたが月に1度、東京から向こうのお母さんの介護に来て、私の顔をちょっと見に寄って帰っていくのがさびしかったのよ」とだけ答えた。

 とはいえ、住み慣れた神戸を離れるのは、知枝子さんにはもちろん心残りだった。

 近所で「お花のおばちゃん」と親しまれ、庭で草花を育てては近所の人に配り歩いたり、育て方を教えたりしていた。地縁で培った人間関係や暮らしをも捨てることになるからだ。

 昭和35年当時、「神戸一の棟梁(とうりょう)に頼みこんで造った」という戸建ての家を終(つい)の住み家にするはずだった。

 ただ、緑内障のため、ここ数年で急速に視力が悪化し、今は人の顔の輪郭がぼんやり分かる程度。4、5年前の夏には脱水症状を起こし、自宅で倒れていたのをヘルパーさんに発見されたこともある。

 知枝子さんの1人暮らしに限界を感じた俊子さんらは特別養護老人ホームを探したが、1人部屋がない、家族が訪問しづらいなどで断念した。

 母親と同居することにし、俊子さんも30年住み慣れた自宅を引き払い、交通と買い物が便利なマンションに移った。

 母の身の回りの世話のため、仕事も辞めた。現在は失業手当で暮らすが、マンション管理士の講習を受けたので、その仕事を探している。しかし、「母親との生活を考えると、なかなか、時間と場所が合わない」。

 マンションの家賃は約11万円。母親の年金から支払っており、「いずれ私1人になったら、自分の生活に応じた所に引っ越す」と、俊子さんは言う。

 母親の知枝子さんは友人、知人と離れ、慣れぬマンション住まい。閉じこもりがちで、体力も衰えが目立つ。移動が困難な母親と住み始めた俊子さんも、つい母親が心配で家から出なくなり、「腕や足の筋肉が衰えてきた」ともらす。

 母親を入浴させるのが体力的にきついので、週2回はデイサービスを頼んでいる。

                   ◇

 昨日お伝えした、芦屋市の海辺に立つ南芦屋浜災害復興公営住宅も、9〜12階建ての高層住宅。そこに多くの高齢者が住んでいる。

 常駐する生活援助員の小林大洋さんは「高層マンションの暮らしは、お年寄りには厳しい。風が強い日は『重い鉄の玄関を開けてくれ』と、緊急連絡してくる高齢者も少なくない。大の男が体を斜めに玄関のスキマにさし入れて、ようやく開けるときもある」。

 立地も、周囲に建物がなく、六甲から芦屋浜への風が吹きおろす。町へ行くバスに乗るには、吹きさらしの橋を渡らねばならず、お年寄りらは出るのをためらいがちだ。

 ここで24時間常駐の見守り事業を行う社会福祉法人の田中喜代子さんは「見守りだけでは、高齢者の孤独死を防ぐのは不十分。年齢に応じた住まい方と、それをどう支援するかを考えることも必要」という。

 高齢者が住むには、外出しやすく、外からも様子をうかがいやすい平屋を。高層マンションが不可避なら、高齢者が家から出やすく、周囲と関係を持ちやすい環境づくりを、というのが、関係者の願いだ。

                   ◇

 生きがいも必要だ。生きがいが人との交流を呼び、高齢者の体力や知力の衰えを防ぐ。

 神戸時代の知枝子さんは、草花を育てる趣味で地域の人と結びついてきた。視力が衰えた今はそれも難しい。娘の俊子さんは、見えやすい原色の毛糸を使用したアクリルたわしを作ることを勧めた。

 それを、老人会や東京で知り合った友人、知人に配る。俊子さんは夫が亡くなったときに、年末にかかわらず、地域の人が協力して助けてくれた経験をもつ。地域に顔を出す大切さは、よく分かっている。

 NPO「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」の黒田裕子理事長は「障害をもつ高齢者を旅行に連れ出す団体もある。高齢者の安全確保とともに、こうした情報を広げることも課題。生きがいが高齢者の生きる力になる」と話している。=おわり

(2007/02/28)

 

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