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世帯分離 「自己負担を減らしたい」(中)

通所者が作った布製品や木工製品。「工賃が、(施設利用料の)負担で消えてしまうのが悔しい」と安川施設長=府中共同作業所



 ■自立支援法に対抗 障害者の分割増加

 老親と世帯を分けることで、介護の費用負担を減らす「世帯分離」。負担が減るのは、介護の分野だけではありません。平成18年4月に障害者自立支援法が施行されて以来、障害者と世帯を分離する家族が増えています。障害者も世帯の収入に応じて、介護や介助サービスの自己負担を求められるようになったからです。(寺田理恵)

 東京都府中市の小林恵美さん(32)=仮名=は脳性まひのため、寝たきりで育った。両親と3人暮らしだが、今年4月に両親と世帯を分けた。身体障害者の通所授産施設「府中共同作業所」に通う費用を、少しでも減らすためだ。

 作業所では、約30人が障害の程度に応じて木工品やふきんなどを製作する。小林さんもミシンでエプロンを縫う。工賃が月1900円にしかならなくても、小林さんにとって、ここでの時間はかけがえのないものだ。

 ところが、作業所に通うには、施設利用料の自己負担分と給食費とで月に約3万円かかる。週2回利用していたホームヘルプサービスをやめて月2万円を浮かせたが、まだ不足する。

 父親(62)は定年退職し、63歳までは年金が満額支給されない。現在は蓄えを取り崩す生活だ。目で意思表示をする小林さんは、両親から世帯分離の相談を受け、「お金がかからない方」を選んだ。その結果、3万円かかる自己負担は9600円にとどまった。

 山本茂さん(38)=仮名=も脳性まひで生活全般に介助が必要だ。作業所では木工品を製作し、工賃として月約8000円を受け取る。

 世帯分離をせず、両親と3人世帯なので、市町村民税課税の「一般」世帯に区分される。作業所のほか、ショートステイを利用すると、自己負担は月4万円かかる。

 母親(63)は「大変な負担です。悩みに悩んだ結果、自立支援法に反対する意思表示として、世帯分離をしないと決めました。普通に生きることに負担がかかるのは、納得できない」と主張する。

 小林さんも、山本さんも作業所のない生活は考えられない。いずれの家族も「これほど負担が大きかったことはない」といい、自立支援法には反対している。

 「作業所に通うほど、支出が増える。工賃は、多い人でも月約1万円。自己負担で消えてしまうのは、悔しい。障害年金が残らなくなってしまい、働くことを全否定された形です」と安川雄二施設長。

                  ◆◇◆

 障害者に負担を求める障害者自立支援法は、障害者や関係者の多くが「これまでの運動の大きな後退」とする。共同作業所は「障害があっても地域で暮らしたい」との願いで全国に広がった。しかし、「お金がないから通えない」と、自宅に引きこもる障害者が増えたからだ。

 障害者団体「きょうされん」(東京都中野区)が支援法施行当初の昨年夏に実施した実態調査では、4月から7月までに退所した人は加盟施設531カ所で108人。利用料や給食費の滞納者も増加の一途だった。

 こうした事態に、国は今年4月から2年間、負担を軽減するなどの特別対策を取った。非課税世帯の負担上限月額を3750円に、「一般」世帯でも、年収がおおむね600万円以下の世帯の負担上限月額を9300円に引き下げた。

 しかし、預貯金が単身世帯で500万円以下、家族同居の世帯では1000万円以下の条件がある。障害者のいる家庭では、「親に何かあったときの、子供のため」と障害年金をためてきた人が多く、条件に合わない事例は少なくないという。

                  ◆◇◆

 「きょうされん」によると、障害者の多くは月額約6万6000円の障害年金(2級)を受けている。授産施設の工賃を加えても、平均月収は約8万円。一方、支出は自立支援法の施行前と比べ、月1万円以上増え、「増加分だけで月収の約6分の1に相当し、生活の質に影響が出ている」(藤井克徳きょうされん常務理事)。

 同団体では、世帯分離を「合法的に太刀打ちできる自己防衛策であり、対症療法」として、セミナーや勉強会などの機会をとらえて奨励している。

 負担軽減を目的とした世帯分離は、市町村によって対応に違いはあるが、窓口ですんなり通ることが増えてきたという。

 藤井常務理事は「世帯分離を絶対にしないという親もいれば、障害者福祉は公的責任で対応すべきだと考えて、する人もいる。最も多いのは、苦しいから負担を減らすケース。事務局への問い合わせも多く、実際に世帯分離をした家族は相当、増えているはず」と話している。

(2007/06/05)

 

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