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世帯分離 「自己負担を減らしたい」(下) 

老人保健施設の食事メニュー。平成17年10月から全額自己負担となったが、低所得世帯だと負担が軽減される(写真はイメージです)



 ■「しないで済む制度を」 非合法ではないが…

 1つの世帯を、同じ住所で複数に分ける「世帯分離」。所得の低い世帯を作れば、その世帯で介護や医療などの自己負担が減るため、注目を集めています。社会保障の自己負担が増えるなか、世帯分離が進めば、社会保障全般に波紋が広がりそうです。(寺田理恵)

 東京都内にある介護型療養病床(老人病院)の院長は「生活保護を受けて入院費用を安くするために、世帯分離をする患者は、ずいぶん前から見られた」と話す。

 院長室の窓越しに、高級車で見舞いにくる家族を眺めるたび、「裕福な家族がいるのに…」と、釈然としない気持ちになったという。

 「世帯分離」はかつて、福祉の現場以外では、ほとんど知られていなかった。“負担逃れ”と取られかねないのも理由だが、施設側の事情もあるようだ。

 「平成17年10月に介護保険施設のホテルコスト(居住費・食費)が利用者負担になったとき、近くの施設で世帯分離をする入所者が増えたと聞いて、うちでも増えるのではないかと心配した。病院の収益が下がると困るので、こちらから世帯分離を勧めることはない。結局、うちでは増えませんでした」と明かす。

 ホテルコストは、所得の低い世帯では軽減される。だから、裕福な家族がいても、世帯を分ければ、安く済む場合がある。

 軽減された分は、介護保険から埋め合わせされる。しかし、補填(ほてん)されるのは国の基準額まで。一般の利用者の場合、ホテルコストは介護保険施設との契約で決まるため、施設側は「患者に自分で払ってもらった方が、高く請求できる」という。

                    ◇

 負担減を目的とした世帯分離が増えているかどうか、実態を把握するのは困難だ。しかし、厚生労働省は、あまり増えていないとみる。

 世帯分離が進むと、利用者負担の区分では「第2段階」(世帯全員が市町村民税非課税で、本人が年金収入80万円以下など)が増える。ところが、特別養護老人ホームや老人保健施設の入所者に占める第2段階の割合は、17年10月の時点と、1年後の18年10月でほとんど変化がないからだ。

 厚生労働省の桑田俊一介護保険課長は「世帯分離は非合法ではない。しかし、負担能力のある世帯でも、(自己負担が軽減される分を)介護保険で負担してもらう仕組みであることをご理解いただいて、世帯分離をするかどうか、判断していただきたい」とする。

 埋め合わせの財源は介護保険料と公費だ。介護保険財政から考えれば、世帯分離は歓迎できない手法といえる。

 世帯での負担能力は、ホテルコストだけでなく、65歳以上の介護保険料を決める際にも問われる。

 高齢者の6割は、自身の住民税が非課税で、段階的に保険料が軽減される。非課税者はさらに、同世帯に住民税を納める人がいるかどうかで区分される。世帯に住民税を納める人がいると、本人の収入に関係なく、非課税者の中で最も保険料が高い段階に区分されてしまう。

 厚労省は現行の算出方法が適切かどうかを検討中だ。これを見直すことになれば、同様の分け方をするホテルコストなどの負担にも影響しそうだ。

                    ◇

 東京都杉並区の太田哲二区議は昨秋、世帯分離を広く知ってもらおうと、『家計を守る「世帯分離」活用術』(中央経済社)を出版した。

 区民から生活相談を受ける立場上、税と社会保障の仕組みを横断的に調べて、世帯分離のテクニックを知っていた。しかし、「日本の福祉と医療の原則は『所得が高ければ多く支払う』『家族の支え合い』の2つ。世帯分離は、日本人の常識と違うので誤解を受けかねない。ことさら勧める方法でもない」と思っていた。

 出版を決めたのは、障害者自立支援法の施行がきっかけ。「障害者も1割を自己負担にすれば、障害者のいる家庭は、あっという間に苦しくなる。世帯分離は、やむを得ない場合の“次善の策”。世帯分離をしなくてもよい制度であればベストだ」と話す。

 著書では、読者層を障害者に限定せず、税金や介護保険、医療保険の分野でも、世帯分離の影響を解説している。

 「行政のベースは住民票。だから、住民票の世帯を分ければ、社会保障の負担は連動して変わる。世帯分離は、高齢者の多くに関係のあるテーマ」とする。

 税制改正で、住民税が新たに課税される高齢者は平成18年度に増えた。こうした層を対象にした利用者負担の激変緩和措置も2年で終わる。今後、高齢者のいる家庭で世帯分離が進めば、社会保障全般で、負担のあり方が問われそうだ。

(2007/06/06)

 

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