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年金 年金を取り戻せるか(上)

 ■困難極める記録の追跡 調査権限持たぬ私人

 社会保険庁の年金記録紛失問題で不安が広がっています。平成9年、加入者に割り振った「基礎年金番号」に、いまだに過去の全記録が集約できていないことが最大の問題です。「宙に浮いた」まま放置された記録は、分かっているだけで5000万件超。さらに、記録が丸ごと失われた「消えた」年金もあるといわれます。年金記録は取り戻せるのでしょうか。初回は国民年金の記録を探し続ける夫婦を取材しました。(中川真)

 「20歳からの保険料をすべて納めたのに、なぜ『未納』なんだ」

 横浜市鶴見区で内装店を営む中村正美さん(59)と妻の美津子さん(56)は2年前、地元の社会保険事務所で過去の年金記録を調べ、あぜんとした。

 以来、問い合わせを繰り返しているものの、納得できる回答を得られずにいる。窮状を国会議員に訴え、今月8日には、参院厚生労働委員会に参考人として招かれたが、その後も事態は変わっていない。

 中村さん夫妻は会社に勤めたことがなく、年金は国民年金一本だ。妻の母親に「年金に入ると安心よ」と忠告され、「昭和50年4月末に鶴見区役所で加入した」という。国民年金の保険料は平成14年度から、社会保険事務所が徴収しているが、それまでは市区町村が行っていたからだ。

 当時、中村さんは27歳、美津子さんは24歳。「未加入期間の保険料も全額払えますよ」と説明を受け、将来の受給額を増やすため、2人分の総額7万4800円を納めたという。

 ところが、鶴見社会保険事務所で示された「被保険者記録照会」のデータには、夫妻ともに、昭和50年3月以前の納付記録がなかったのだ。

 「記憶は鮮明にあります。大金だったので、妻任せにせず、ヨチヨチ歩きだった2歳の息子と3人で、大型連休の直前に区役所に行って、納めたんですよ」。中村さんは当時を振り返る。

 社会保険事務所は「領収書を持ってきてください。それで分かった人もいますから」と繰り返すだけ。家中を探したが、年金手帳や領収書は出てこなかった。「22年前の建て替えで、古い書類を処分してしまったのかもしれない」(美津子さん)という。

 鶴見区役所に問い合わせても、「保険料を国に納めたから、昔の記録は残っていません」と、らちがあかない。

 そこで、県内の社会保険事務所を統括する神奈川社会保険事務局(横浜市中区)に何度も通ったが、美津子さんは「いくら説明しても、全否定の一点張りで、取り付く島もなかった。説明もその都度違い、内容も矛盾だらけ。このままでは、老後に年額20万円以上も年金が減ってしまう」と悔しそうに語る。解決どころか、不信感と怒りだけが膨らむ結果となった。

                  ◇

 中村さん夫妻の例でわかるのは、行方不明の国民年金を見つけることが、いかに難しいかということだ。会社の在籍記録や同僚の証言などから、保険料納付の事実を明らかにしやすい厚生年金とは違う。

 政府は近く、こうしたケースに対応するため、弁護士や税理士などをメンバーとする「第三者機関」を立ち上げる。だが、中村さんから相談を受けた社会保険労務士の豊島信行さんは「真実の発見は国の責務。私人で何の調査権限もない加入者に『立証しろ』というのは、あまりに酷だ」と強調する。

 実際、個人の調査には限界がある。中村さんは「昭和50年4月に未納分の7万4800円を一括して納付するため、1口5万円の郵便局の定額貯金を2口解約した」という。

 ところが、定額貯金は証書と引き換えに現金を受け取る仕組みだから、通帳などの証拠はない。美津子さんは自宅近くにある特定郵便局で問い合わせたが、データは残っていなかった。日本郵政公社によると、証書の保存期間は当時、5年間(現7年)。通常貯金のデータは平成10年より前の分は保存されていない。

 政府は今後、通帳なども判断材料にしたいというが、金融機関に全面的に協力を求めたり、第三者機関に強い調査権限を与えないと、看板倒れになりかねない。

 社労士の豊島さんは、「中村さんは加入後に滞納歴がなく、当初は(受給が増える)付加保険料を納め、国民年金基金も発足直後からやっている。『昭和53年6月に口座引き落としにするまで、集金人が何度も自宅に来ていた』という記憶も説得力がある」と話す。

 こうした状況がどれだけ認められるか−。問題は社保庁の実務の域を大きく超え、政治決断を問われることになりそうだ。

                  ◇

 中村さんの件について、本人の承諾を得て、神奈川社会保険事務局の早川正通年金課長に聞いたところ、早川課長は「可能性のあるデータを洗いざらい調べたが見つかっていない。OBや区役所関係者に当時の実情を聞くなど、調査を続けたい」と話す。

 しかし、当時のいい加減な対応や、年金記録が抱える驚くべき欠陥も見えてきた。次回、リポートする。

(2007/06/18)

 

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